世田谷区教育の情報化推進計画(令和6年度~令和10年度) 令和6年4月 世田谷区教育委員会 はじめに ・超スマート社会(Society5.0)(注:P38の用語解説を参照)の到来により、これまでにない新たな価値の創造が可能な時代を迎えつつあります。また、新型コロナウイルス感染症の影響等により、デジタル化を含む社会の変化はかつてないほどのスピードで加速しています。不透明で変化の激しい時代である一方で、新たな時代に向けてステップアップする好機でもあります。 ・急速に変化する社会状況の中で、子どもたちは身近な事象から課題を見出し、主体的に考え、多様な立場の者が協働的に議論し、納得解を生み出すことなど、探究的な学びに必要な能力が一層強く求められるようになってきました。 ・新しい時代に即した学び方は、子どもたちが変化した社会を生き、豊かな人生を送るために必要な力として欠かせないものになります。 ・世田谷区においては、平成26年度に「世田谷区教育の情報化推進計画(平成26年度~平成35年度)」を策定し、教育現場におけるICT(情報通信技術)の活用に取り組んできました。 ・本計画は、従来の教育の情報化推進計画に基づく取組みの成果や、令和6年度からの新たな「世田谷区基本計画」や「世田谷区教育振興基本計画」等の上位計画を踏まえ、教育DXの更なる推進に向けた方向性を示すものとして策定するものです。 ・本計画を通して、子ども一人ひとりが自ら考え、主体的に学び、創造力を養う環境を整備するとともに、ICTを活用した教育の推進に向けた新たな取組みを推進していきます。 ・教員がより良い授業を実践するための支援を行い、より充実した教育環境の整備を進めるなど、区の教育ICT基盤(注:P38の用語解説を参照)やICTリテラシー教育(注:P37の用語解説を参照)を総合的に推進していきます。 教育DX = デジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation) 教育現場における活動やプロセスを、デジタル技術を活用して革新することを指 し、学校や教育委員会の効率性の向上を目指します。 目  次 第1章 教育DX推進に向けた基本的な考え方とこれまでの総括 1ページ 1.基本的な考え方 1ページ (1)世田谷区教育の情報化推進計画(平成26年度~平成35年度)に基づく情報化推進 1ページ (2)令和元年以降(GIGAスクール構想以降)、コロナ禍により変化した取組み 1ページ 2.これまでの教育情報化推進状況及び取組みの総括 1ページ 第2章 目指すべき方向性 6ページ 1.現状・課題と目指すべき将来像 6ページ 2.教育DX推進の全体イメージ 7ページ 3.教育DX推進にあたり留意すべき視点 8ページ (1)調査研究等の推進 8ページ (2)関係者の共通理解の促進 8ページ (3)区民の理解と関心の増進 8ページ (4)地域、大学や民間事業者等との連携 8ページ 第3章 目指すべき将来像の実現に向けた教育DX推進施策 9ページ 1.教育データ利活用の推進 9ページ (1)学習者ごとの進捗状況や理解度の確認 9ページ (2)個別最適化された学びの提供 9ページ (3)児童・生徒や保護者とのコミュニケーションの改善 9ページ 2.教員のICT活用指導力の向上 11ページ (1)新たなデジタル教材やICTツール及びクラウドサービスの利用推進 11ページ (2)研修の企画・開催 11 (3)教員同士のコミュニケーションの向上 12ページ 3.児童・生徒の情報活用能力の育成 14ページ 4.働き方改革の推進 16ページ (1)学習系・校務系のネットワーク環境の統合による利便性の向上 16ページ (2)教員リモートワーク環境の整備及び推進 17ページ (3)デジタル採点システムの導入 18ページ (4)Web会議ツール等を活用したコミュニケーションの向上及び活性化の推進 18ページ 5. 生成AIの教育利用の促進 19ページ (1)生成AIの教育利用に関する区の基本的な考え方 19ページ (2)生成AI活用の適否に関する考え方 19ページ (3)教育現場における生成AI利用に際して留意すべき事項 19ページ (4)学校現場における生成AI活用の方向性 19ページ 6.ICT機器の安定運用及び確実なリプレイスの実施(老朽化対応) 21ページ (1)機器更新の方針 22ページ (2)現状把握 22ページ (3)リプレイス作業の実施 23ページ (4)教員、児童・生徒への周知・説明 23ページ 【参考資料1:国における学校教育の情報化の動向(令和元年以降)】 25ページ 1.国による学校教育情報化推進計画の策定 25ページ 2.学校教育の情報化の現状と課題 25ページ (1)児童・生徒の資質・能力の育成 25ページ (2)教員の指導力の向上 26ページ (3)学校ICT環境整備の推進 26ページ (4)学校における働き方改革の推進 27ページ 3.国における学校教育の情報化に関する基本的な方針 28ページ (1)ICTを活用した児童・生徒の資質・能力の育成 28ページ (2)教員のICT活用指導力の向上と人材の確保 28ページ (3)ICTを活用するための環境の整備 29ページ (4)ICT推進体制の整備と校務の改善 29ページ 【参考資料2:令和3年9月の分散登校時におけるオンライン学習に関するアンケート調査結果(概要)】 30ページ (1)調査の主旨 30ページ (2)分散登校時のオンライン学習の概要 30ページ (3)アンケート調査の概要 30ページ (4)アンケート内容と調査結果 30ページ 【参考資料3:用語解説(アルファベット、50音順)】 37ページ 第1章 教育DX推進に向けた基本的な考え方とこれまでの総括 1.基本的な考え方 区では、第2次世田谷区教育ビジョン・第2期行動計画及び世田谷区教育の情報化推進計画(第2期行動計画)に基づき、教育ICT環境の整備を進めるとともに、ICTを活用した授業の推進、家庭学習の支援等を実施してきました。 この間、学校全体のICT環境の整備、タブレット型情報端末の整備及びその活用方法の検討、教員のICT活用能力の向上に向けた研修、デジタル教材の開発・活用等、ハード・ソフト双方の整備を計画的に進めてきました。 このような状況の中で、令和元年12月に文部科学省が「子どもたち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現」を目的とした政策方針として「GIGAスクール構想」(注:P37の用語解説を参照)を公表したことを受け、区では全区立小・中学校の児童・生徒1人1台のタブレット型情報端末(約50,000台)(以下、「GIGA端末」という。)の配備、指導に携わる教員用に同端末約3,000台の配備を行うとともに、全小・中学校を対象に高速通信可能なネットワークを整備するなど、教育ICT環境の大幅な整備拡充を実施しました。 また、電子会議アプリによる動画配信や学習支援アプリによるオンライン授業を実施するなど、学校や児童・生徒の状況に合わせたICTを活用した学びの取組みを進めてきました。 令和3年9月の分散登校期間中に実施したオンライン学習においては、コロナウイルスの不安がなく安心して学べたことを評価する声が多かった一方で、映像や音声などの環境設定や機器の整備、また質問や発言、学び合いの機会の確保や一人ひとりの学習状況の把握が課題となりました。(参考資料2「令和3年9月の分散登校時におけるオンライン学習に関するアンケート調査結果(概要)」を参照) また、近年では生成AI(注:P38の用語解説を参照)等、これまでにない機能を有する新たなツールが急速に普及し始めており、様々な企業や個人が生産性の向上等に向けて活用を進める一方で、倫理面やプライバシー保護等の観点も踏まえ、これらのツールとどのように向き合うか世界的な議論を呼んでいます。 今後、教育においても児童・生徒が生成AI等の新たなICTサービスに適切に対応し、安全に活用できる能力をはぐくむための情報活用能力の育成やICTリテラシー教育を推進するとともに、新たなICT基盤を効果的に活用し、「個別最適な学び」及び「協働的な学び」等を実現するため、「教育デジタル・トランスフォーメーション(教育DX)」を積極的に推進する必要があります。 2.これまでの教育情報化推進状況及び取組みの総括 (1)世田谷区教育の情報化推進計画(平成26年度~平成35年度)に基づく情報化推進 平成26年度~令和5年度においては、以下の4つの目標及び6つの基本方針のもと、さまざまな事業の取組みを推進してきました。 【4つの目標】 ・ICTを活用した教育活動の充実と学力の向上 ・ICTを活用した信頼される学校づくりと教育の質の向上 ・地域とともに進める教育の情報化 ・セキュリティの確立 【6つの基本方針】 ・児童・生徒の情報活用能力の育成 ・教科指導における情報通信技術の活用 ・校務の情報化、校務の負担軽減 ・地域との連携、地域の拠点としての学校 ・災害に強い学校づくり(災害時の情報発信体制の強化等) ・運用管理体制の強化 【6つの基本方針に基づく具体的な取組み内容】 ・児童・生徒の情報活用能力の育成 情報モラル教育の充実、学校図書館の充実及び安定運用 ・教科等指導における情報通信技術の活用 教員のICT活用能力の育成、普通教室におけるICT教育環境の整備、ICTを活用した授業推進校(学び舎)の設置、デジタル教材を活用した授業改善、特別支援教育の充実 ・校務の情報化、校務の負担軽減 学校における校務の情報化の推進(効率性の向上)、学校における校務の情報化の推進(新たな適用業務)、世田谷区教育委員会事務局の事務改善、安定した校務ネットワークシステム運営に向けた機器更新 ・地域との連携・地域の拠点としての学校づくり 学校ホームページを活用した学校関係者評価等の推進 ・災害に強い学校づくり 緊急連絡情報配信サービスの安定運用、災害時における学校ICT環境の活用 ・運用管理体制の強化 情報化推進リーダー(現・ICTインフルエンサー)の育成、情報セキュリティの推進 (2)令和元年以降、コロナ禍により変化した取組み 世田谷区教育委員会(以下、「区教委」という。)では、世田谷区教育の情報化推進計画(平成26年度~平成35年度)に基づく取組みを推進するとともに、令和元年12月に文部科学省が公表した「GIGAスクール構想」を踏まえ学校や児童・生徒の状況に合わせたICTを活用した新たな学びを推進してきました。 同じく令和元年12月以降、新型コロナウイルス感染症は世界各国に拡大し、日本の社会経済にも大きな影響を与えました。区では、国から学校の全国一斉臨時休業の要請が行われたことを受け、令和2年3月2日から区立小・中学校を臨時休業とし、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に向けた取組みを行いました。また、同年4月7日には国から緊急事態宣言が発出されました。 その後、令和3年7月からの新型コロナウイルス感染症の急激な拡大により、区では令和3年の2学期(9月1日から9月12日)の取組みとして、短縮授業や分散登校を実施し、可能な限り感染を防止しつつ、学びの保障に向けてオンライン学習を併用した授業を行いました。また、令和4年1月からの感染者拡大に際しては、1月28日から3月6日まで、2学期のオンライン学習での成果と課題をもとに、「通常授業とオンライン学習の選択制」を実施したことにより、児童・生徒は自宅からオンラインツールを通して授業を受ける機会や、AIドリル学習ツールを用いて学習する機会が急速に増加しました。(詳細は、参考資料2「令和3年9月の分散登校時におけるオンライン学習に関するアンケート調査結果(概要)」を参照) このような状況の中、区においてもDX推進の方向性を示すため、令和3年3月に「世田谷区DX推進方針Ver.1」を策定し、区民や事業者の視点から、デジタル技術やデータを活用して行政システムを根本から変革し、ICTの浸透により区民生活があらゆる面で良い方向に変化する、デジタル社会の実現に向けて、必要な基盤の整備や普及の取組みを進めてきました。 区教委においても、GIGAスクール構想による教育ICT環境整備以降、教育DXの推進に関する取組みに着手しており、児童・生徒の学びの機会や質をより多様で充実させるとともに、教員の指導方法の充実や業務負担軽減等の観点から、働き方改革の実現に向けた取組みの準備を進めてきました。 (3)これまでの取組みの総括 区では、以前より教育の情報化推進計画に基づく取組みを進めてきましたが、令和元年以降の新型コロナウイルス感染症の感染拡大や「GIGAスクール構想」への対応を通して、区のみならず児童・生徒、保護者、教員といった学校教育の当事者全体が、過去に類を見ない教育ICT環境の転換を経験してきました。 これは、各学校における教育ICT機器、ネットワークや学習用アプリアカウント等の整備状況(以下参照)を見ても明らかであり、GIGAスクール構想に基づく教育ICT環境の整備以降、学校に配備されるタブレット型情報端末やアクセスポイントの数が大幅に増加し、学びのあり方も全く異なるものとなっています。 【参考:GIGAスクール構想前後における区立小学校におけるICT環境の変遷】 ①児童・生徒用及び教員用タブレット型情報端末の整備状況 令和3年3月時点 小学校児童・生徒用端末数 31,615台 中学校児童・生徒用端末数 11,042台 小学校教員用端末数 1,461台 中学校教員用端末数 545台  令和4年3月時点 小学校児童・生徒用端末数 38,852台 中学校児童・生徒用端末数 11,861台 小学校教員用端末数 2,712台 中学校教員用端末数 973台 令和5年3月時点 小学校児童・生徒用端末数 39,422台 中学校児童・生徒用端末数 12,273台 小学校教員用端末数 2,718台 中学校教員用端末数 975台 ※上記数値には予備的に配備したものを含む。 ※令和2年度以前は、各学校に41台の児童・生徒用Windowsタブレット型情報端末と、各学校の学級数分の教員用Windowsタブレット型情報端末のみ配備。 ②iPad等接続用ネットワーク用無線アクセスポイントの整備状況 令和3年3月時点 小学校 1,400台 中学校 429台  令和4年3月時点 小学校 1,692台 中学校 620台 令和5年3月時点 小学校 1,689台 中学校 622台 ※アクセスポイント数:教室内の壁面等に設置された「固定型無線アクセスポイント」と、様々な場所で利用可能な「可搬型無線アクセスポイント」の合計数。 ※令和2年度以前は、児童・生徒用Windowsタブレット型情報端末及び教員用Windowsタブレット型情報端末が接続可能な「可搬型無線アクセスポイント」のみ各校に数台配備(学校規模により台数が異なる)。 ③学習用アプリアカウントの整備状況 令和3年3月時点 小学校Microsoftアカウント数及び授業支援アプリアカウント数 全児童・生徒に配付 AIドリル学習アプリアカウント 小3以上の全児童・生徒に配付 令和4年3月時点 小学校Microsoftアカウント数及び授業支援アプリアカウント数 全児童・生徒に配付 AIドリル学習アプリアカウント 小3以上の全児童・生徒に配付 令和5年3月時点 小学校Microsoftアカウント数及び授業支援アプリアカウント数 全児童・生徒に配付 AIドリル学習アプリアカウント 小3以上の全児童・生徒に配付 ※令和2年度以前は、いずれのアカウントも配備せず。 ※授業支援アプリ:授業の際に教員、児童・生徒間で多様な情報をやり取りするためのアプリ ④ GIGA端末を活用した新たな学びの普及・推進状況 令和3年度調査結果 小学校における授業支援アプリの利用率 37.1% 中学校における授業支援アプリの利用率 39.5% 小・中学校におけるICT機器使用により探究心が向上した児童・生徒の割合 84.6% 令和4年度調査結果 小学校における授業支援アプリの利用率 74.9% 中学校における授業支援アプリの利用率 72.8% 小・中学校におけるICT機器使用により探究心が向上した児童・生徒の割合 85.4% 令和5年度調査結果 小学校における授業支援アプリの利用率 88.4% 中学校における授業支援アプリの利用率 90.1% 小・中学校におけるICT機器使用により探究心が向上した児童・生徒の割合 86.9% ※授業支援アプリの利用率は、学校、自宅いずれかで授業支援アプリを使用した児童・生徒の割合を指します。(注:区ではGIGA端末を自宅に持ち帰り、日々の学習で使用する運用としているため、この数値を採用しています。) ⑤ 教員のICT活用指導スキルの推移 オンライン授業運営に必要なICT活用指導スキルを有する教員の割合 令和2年度調査結果 37.4% 令和3年度調査結果 69.2% 令和4年度調査結果 69.8% 令和5年度調査結果 77.2% ⑥ 統合型校務支援システム導入に伴う教員が子どもと向き合う時間の変化 令和5年4月の統合型校務支援システム導入後、子どもと向き合う時間が増加したと感じた教員の割合 令和5年度調査 82.5% また、教員の働き方の改革に向け、区では令和5年4月より新たに「統合型校務支援システム」を導入し、運用を開始しました。同システムの積極的な活用により教員の業務効率化を図り、子どもたちに向き合う時間の拡充を図るとともに、将来的には他システムとのデータ連携を通して教員が多様なデータを有効活用できる環境を整備し、個別最適な指導につなげていく予定です。 上記のように、令和3年度以降、タブレット型情報端末や学習用アプリを活用した新たな学びが全ての区立小中学校で進みつつありますが、全ての児童・生徒が漏れなくタブレット型情報端末を活用するという取組みが始まって間もないことや、GIGAスクール構想に基づく教育ICT環境が極めて短期間で整備されたこと等に伴い、以下のような課題も生じつつあります。 【GIGAスクール構想に基づく教育ICT環境整備以降における課題の例】 ・学校内における端末同時利用数や、インターネット回線の混雑状況等により、インターネット接続の際に通信遅延等が生じる可能性がある。 ・学校によっては、オンライン配信型授業を実施する際に必要となる教員用端末が不足する場合がある。 ・タブレット型情報端末を活用した授業改善の取組みが、学校間や学年間等でばらつきが生じる場合がある。 ・ICT利用についてのルール周知や指導等が十分でない場合、児童・生徒がトラブルに巻き込まれたり、ICT機器を必要以上に長時間にわたり使用したり、健康を害する可能性がある。 ・著作権に関する知識や意識が希薄な場合、児童・生徒が誤って他人の著作物等を無断で利用する可能性がある。 ・統合型校務支援システムと他システムとのデータ連携にあたっては、技術面、運用面及び情報セキュリティ面の課題等を整理した上で、安全性の担保された運用を確立する必要がある。 今後、児童・生徒がこれまで以上に円滑にタブレット型情報端末や学習用アプリを活用した学びに取り組めるようにするとともに、今後、子どもたちが社会において適正なICT利活用を行っていくための基礎となる情報モラルや必要な知識を習得させるための情報リテラシー教育の充実等を図る必要があります。 区では、本計画の推進を通して、新たな時代に対応した情報活用能力の育成や情報リテラシー教育等をより一層充実していきます。   第2章 目指すべき方向性 1.現状・課題と目指すべき将来像 今後、これまでの教育ICT推進の取組みを踏まえ、以下のとおり現状・課題及び目指すべき将来像を整理するとともに、今後は大幅に整備、拡充した教育ICT基盤の積極的な利活用推進を通して目指すべき将来像の実現に向けた取組みを推進していきます。 ①児童・生徒の学びの転換(一人ひとりが自ら考える力を養う学びの実現)  現状・課題1 学習状況・学校生活・家庭での様子等の振り返りにより自らの課題等に気付き、考える力を育む仕組みが十分ではない。  目指す姿1 学習・生活ノート(児童・生徒利用機能)等で学校生活や学習結果を振り返ることで、自らの課題と向き合い、考える力が向上している。  現状・課題2 デジタル教材ごとにID/パスワードが異なるため、使い勝手がよくない。  目指す姿2 利用者IDの統合によりデジタル教材の利便性が高まり、学習効率や学習効果が向上している。 ②教員の働き方の転換(子どもたちに向き合う時間の拡充)  現状・課題1 学習指導以外の様々な業務負担が多く、個別最適な指導の時間が十分に取れない。また、データの有効活用が進んでいない。  目指す姿1 統合型校務支援システムの活用により業務効率化が進むとともに、他システムとのデータ連携により多様なデータを有効活用できる環境が整い、個別最適な指導が進んでいる。  現状・課題2 いじめの防止・早期発見等に必要となる児童・生徒の様子の記録・共有・分析に手間がかかる。  目指す姿2 個々の児童・生徒の様子を詳細に記録し、学校・教育委員会・保護者全体で共有する仕組みの導入により、変化に気付き、迅速に対応できている。  現状・課題3 教員の負担が大きくなる一方で、多様な働き方を支援する仕組みが十分ではない。  目指す姿3 授業に有用な教材共有が実現し、指導力が向上するとともに、場所を選ばず働くことができる。 ③保護者・地域の関わり方の転換(子どもの状況がよくわかる)  現状・課題1 学校からのお知らせをスマートフォン等で確認できるが、保護者と学校間の双方向の連絡手段が限られている。  目指す姿1 学校からのお知らせに加え、より簡易に保護者から学校への連絡ができている。  現状・課題2 子どもの学校での様子や学習状況を把握する方法が限られている。  目指す姿2 双方向のコミュニケーションを通して、保護者が学校での様子をより的確に把握できている。  現状・課題3 学校教育活動や地域活動に関わる地域人材の確保を学校だけで行っていくのは難しい。  目指す姿3 地域の多様な人材が学校に関われるようにすることで、教育活動の充実や、地域コミュニティの核となる学校づくりが図られている。 ④支援の転換(必要なサポートを迅速に提供する)  現状・課題1 各種連絡会のリアルタイムなコミュニケーションの実現が課題である。  目指す姿1 教育委員会各課の情報共有の仕組みを導入し、複雑な問題や相談等にも的確なサポートを迅速に行える。  現状・課題2 いじめの防止・早期発見等のため、関係機関との効率的な情報連携の仕組みが必要である。  目指す姿2 上記の仕組みに加え、外部専門機関との連携も踏まえた迅速な対応が実現している。  現状・課題3 教育総合センターの相談/支援所管と保健福祉所管の連携を強化し、切れ目ない支援を行う仕組みが必要である。  目指す姿3 統合的な支援体制により、各種制度や対応事例などを学校・教育委員会・関係所管・地域等で幅広くリアルタイムに情報共有できている。 2.教育DX推進の全体イメージ 子どもたち一人ひとりの生きる力をはぐくむために、教員、区教委、保護者、地域が一体となって支援する仕組みづくりに取り組んでいく。 (イメージ図が挿入) 3.教育DX推進にあたり留意すべき視点 (1)調査研究等の推進 ・近年、教育ICTを取り巻く環境や社会情勢が急速に変化し続けていることから、ICT教育の先進国や他自治体における学校教育の情報化の現状等、常に最新の情報収集に努め、施策の検討や改善等に活用します。効果的な教育方法や教材、健康への影響など、国内外の先行的な調査研究の整理を進めます。紙の教科書とデジタル教科書(注:P38の用語解説を参照)に関して、効果的な学びを実現するための最適な組合せや、教育上の効果について検証を進めます。 ・児童・生徒一人一台端末の整備以降、従来の全員一斉型の学びから個別最適な学びが広がりつつあり、教員に求められる役割やスキルも変化し続けています。例えば、児童・生徒が学校の垣根を越えて、区立学校間や海外の学校等とも遠隔でつながる形で多様な学びを進めることも可能な時代が到来しています。区では、教育ICTの進展に伴う学びの多様化に適切かつ効果的に対応できるよう、調査研究を進めていきます。 (2)関係者の共通理解の促進 ・教育DXは現場に即して進めることが非常に重要であるため、教育ICT推進所属のみで教育DX関連施策を進めるのではなく、区教委、学校、保護者等の関係者が、ICT利活用の方針や使用ルール等について共通理解を図れるように促します。 (3)区民の理解と関心の増進 ・区教委では、GIGA端末を児童・生徒が自宅に持ち帰り、日々の学習で使用する運用としていることから、保護者をはじめとして広く区民の理解と関心を高めることが重要となるため、広報や啓発、アンケート実施などに取り組みます。 (4)地域、大学や民間事業者等との連携 ・最先端の技術や知見を活用して教育DX推進を図るため、国、他の教育委員会、大学、民間企業等と連携した取組みを進めます。 第3章 目指すべき将来像の実現に向けた教育DX推進施策 1.教育データ利活用の推進 世田谷区では、学習用アプリ及び統合型校務支援システム等から児童・生徒の教育データ(出欠状況、学習データ等)を、教員の業務負荷を極力伴わない形で収集及び分析可能な環境を教員に提供し、教育データから児童・生徒ごとの特技や課題等を把握することで、児童・生徒ごとに個別最適化された学習指導が実施できる環境の整備を目指します。 教育データは、教員だけではなく、児童・生徒及びその保護者にも教育ダッシュボード(注:P38の用語解説を参照)を用いて表やグラフ等で確認できるようにし、蓄積した大量の教育データに対しても、閲覧及び分析しやすいような環境の整備を目指します。収集するデータについては、国の情報セキュリティーガイドラインや区教委の情報セキュリティポリシーを踏まえて利用目的を明確に示し、適切に運用します。 教育ダッシュボードは、児童・生徒の学習状況を可視化することで、教育現場において「個別最適な学び」を実現する重要なツールと位置付けられます。 教育ダッシュボードには、スタディログ(学習系)やライフログ(校務系)、ICT端末の   使用状況等の様々なデータから傾向を分析する分析基盤機能(ビッグデータ)を構成し、「どのようなデータ(結果)が必要か」を教育現場のニーズや有識者の意見を取り入れた上で提供することを前提とするとともに、教育目的外でのデータ利用がなされないようにするためのセキュリティを含めた対策を講じた上で、データ活用を通して教員の業務負担軽減や働き方改革等をさらに推進していきます。 (1)学習者ごとの進捗状況や理解度の確認 教育ダッシュボードを活用することによって、児童・生徒の学習進捗状況や理解度を随時把握できるようにします。これにより、児童・生徒ごとに必要な支援を提供することが可能となり、個別最適な学びを提供します。 (2)個別最適化された学びの提供 教育ダッシュボードを活用することにより、児童・生徒が「どのような学習課題に取り組んでいるか」や、「どのようなスキルを習得しているか」等の情報を提供します。これにより、児童・生徒に最適なカリキュラムを提供することが可能となり、効率的かつ効果的な学びを促進します。 また、AIドリル学習アプリの活用推進等を通して、学習状況に合わせた教材の提供が可能となり、個別最適な学びを有効に促進します。 (3)児童・生徒や保護者とのコミュニケーションの改善 教育ダッシュボードを活用することにより、児童・生徒や保護者が児童・生徒の学習状況や進捗状況を確認することができるようになります。 また、教育機関からの情報提供がスムーズに行われるため、保護者の不安や疑問にも対応しやすくなります。 (ダッシュボード(児童・生徒カルテ)のイメージ図が挿入) 「1.教育データ利活用の推進」に関する今後の取組み予定 取組み内容 教育データ利活用の推進 令和6年度取組み予定 教育ダッシュボードの普及促進 令和7年度取組み予定 教育ダッシュボード利活用研修の実施 令和8年度取組み予定 利活用の充実及び効果検証 令和9年度取組み予定 次期統合型校務支援システムの検討 令和10年度取組み予定 今後の利活用方針の検討 2.教員のICT活用指導力の向上 GIGAスクール構想による「1人1台端末」環境の整備により、教育現場におけるICT(情報通信技術)の活用が促進されています。教員が児童・生徒にさらに効果的な指導を行うため、GIGA端末を利用した授業力の向上を推進します。 (1)新たなデジタル教材やICTツール及びクラウドサービスの利用推進 ①新たなデジタル教材、クラウドサービスの導入促進 新しいデジタル教材及びクラウドサービス(注:P38の用語解説を参照)の導入を促進するため、教育現場での意見を広く募集し、区教委で実現性を検討します。 導入決定の際は、利用方法や効果等の情報を区教委から広く発信するとともに、有効的に活用できるよう研修会等を開催します。 ②教育現場におけるICT環境の整備 新しいデジタル教材及びクラウドサービスを活用するためには、教育現場におけるICT環境の整備が欠かせません。既存のICT環境を見直し、より効率的な授業が実施できるよう常に改善を検討します。 また、コロナ禍を契機としたオンライン学習の広がりも見据え、教室に必要な機器や、校内Wi-Fi整備箇所等については、各学校の改築・改修、機器リプレイス(注:P38の用語解説を参照)等の機会をとらえて段階的に拡充していきます。 ③新しいデジタル教材、クラウドサービスの活用事例の共有 教育現場における新しいデジタル教材及びクラウドサービスの活用事例を共有することで、教員同士の交流を促進し、より効果的な活用方法を模索することができる環境を整備します。 具体的には、区教委が企画した研修やワークショップにて、具体的な活用方法を実践し、より効果的な活用方法を確立します。 研修後は、参加者が作成した活用方法等のフィードバックを行います。 (2)研修の企画・開催 GIGA端末を活用した授業スキルの向上に向けて、様々な研修を企画・開催します。参加者同士での情報共有や実践に重点を置くことで、より効果的な研修会開催を目指します。 ①GIGA端末を活用した授業の導入方法についての研修会の開催 教育研究・ICT推進課が主体となり、GIGA端末の活用事例や授業における活用方法及びデジタル教材の作成方法や使い方を収集し研修会を開催します。 参加者同士でのデジタル教材の情報共有やレビューを実施し、研修後は参加者が作成したデジタル教材を発表したフィードバックを行います。 ②授業のインタラクティブ化に向けた研修会 研修会の成果物を活用し、従来のGIGA端末を利用した授業に加え、インタラクティブな授業(双方向)の方法や工夫について紹介します。 授業中の児童・生徒とのコミュニケーションを促す方法やツールの紹介、参加者同士でのアイデア共有やワークショップ形式にて実践形式の授業を模擬開催します。 研修後は参加者が実践した授業のビデオ分析やフィードバックを実施します。 ③GIGA端末を活用した授業の評価についての研修会等の実施 GIGA端末を利用した授業の評価方法や工夫の紹介及びデジタル教材を利用する際の注意点等についての研修等を開催します。 研修会の終了後は、参加者同士がデジタル教材を利用した授業の評価方法についてフィードバック実施します。 ④教員の情報リテラシー向上を目的とした研修等の実施 教員の情報リテラシー向上や児童・生徒へ情報リテラシーやデジタル・シチズンシップに関する指導を更に充実したものにできるよう、今後も研修開催やオンライン講座の提供等を引き続き実施すると共に、教員を対象とした情報資産やICT機器の取り扱いに関するアンケート等を定期的に実施及び分析後に今後の研修内容等に活用していきます。 (3)教員同士のコミュニケーションの向上 ①教員向けのコミュニケーションツールの活用推進 Microsoft Teams(注:P37の用語解説を参照)等を活用した教員同士の情報共有や交流を促進することで、情報の最新化及び共有を図ります。 ②ICTインフルエンサーによる教員間での課題解決やスキルアップの推進 ICTインフルエンサー(注:P37の用語解説を参照)が中心となり、GIGA端末の授業活用に関するアイデアや利活用に関する意見、疑問点等を教員同士で共有し、様々な課題の解決を図ることで、GIGA端末を利用した授業力向上を推進するとともに、教員同士によるコミュニケーションの成熟を図り、スキルアップ等を促進させていきます。 (4)サポート体制の更なる充実 ①区教委におけるICT推進担当部門の体制強化 区教委のICT推進担当部門の体制を強化し、ソフト面(研修会等の企画)及びハード面(機器の整備等の環境面)において、教員のサポートをより迅速かつ丁寧に実施できるようにします。 ICTに関する研修会を充実させ、教員が適切な知識やスキルを身に付けることができるようにします。 実際の授業での活用方法やトラブルシューティングについても対応履歴や経験を蓄積し、適切かつ迅速に提供できる環境を整えます。 ②オンラインサポートの提供 教員に対するサポート窓口の利便性を拡充します。 現在、教育系と校務系に分離されているサポート窓口を統合し、気軽に相談できる環境の整備を目指します。 また、保護者については、区教委のウェブサイトやAIチャット等を活用し、保護者がいつでも不明点等を確認できる環境を整備していきます。 ③教育現場へのフォローアップの強化 実際の授業において問題があった場合に、ICT支援員等が教員を直接支援することで、スムーズなICT機器やシステムの利用ができるようにサポートしていきます。 ④ICTインフルエンサーの拡充 全校でのICTインフルエンサー育成を目指し、教員がICT機器やシステムの利用に不慣れな場合でも、常に相談できる窓口を学校内に確保し、より効果的なICT教育を実現していきます。また、ICTインフルエンサーを育成する研修会を開催します。 「2.教員のICT活用指導力の向上」に関する今後の取組み予定 取組み内容 教員の情報リテラシー研修の実施 令和6年度取組み予定 研修の実施及び効果検証 令和7年度取組み予定 検証結果に基づく内容の充実 令和8年度取組み予定 新たなICT動向を踏まえた研修の実施及び効果検証 令和9年度取組み予定 検証結果に基づく内容の充実 令和10年度取組み予定 研修の実施及び効果検証、今後の研修実施方針の検討 3.児童・生徒の情報活用能力の育成 デジタル化を含む社会変化のスピードがさらに加速する中、これからの時代を生きる子どもたちが様々な情報やICTサービス等を適切かつ効果的に活用して課題解決を図り、自らの考えを形成していく上で、情報活用能力は必要不可欠なスキルとなります。 児童・生徒向けの情報活用能力の育成やICTリテラシー教育は、生成AIや新たなICTサービスに適切に対応し、安全に活用する能力をはぐくむ上で非常に重要です。児童・生徒が、ICT利活用に伴う様々なリスクに適切に対処しつつ、新たな技術、サービスを効果的に活用して問題を解決する能力を身につけることを支援する必要があります。 また、従来の単科的な教育アプローチと比較し、学際的な問題解決能力、創造性、批判的思考、コラボレーション能力を育成することも重要です。 世田谷区においても、STEAM教育(注:P37の用語解説を参照)やプログラミング教育を推進することで、子どもたちが未来の社会でグローバルに活躍する力を身に付けることができると考えています。 以上を踏まえ、区では、従来の「世田谷区教育の情報化推進計画(平成26年度~平成35年度)」にて進めてきた「児童・生徒の情報活用能力の育成」を引き続き推進し、未来を生きる児童・生徒の新たな学びをさらに進めていきます。 ① 基本的なICT活用スキルの育成 基本的なICTスキルとして、GIGA端末の基本操作、キーボード入力、ファイルの保存や管理、ウェブ閲覧等の基本的なスキルを育成します。 ② インターネット上の情報の評価・理解能力の育成 インターネット上に流通する様々な情報について、信頼性のある情報源と信頼性のない情報源を自ら判別できる児童・生徒が評価できるようにするためのスキルを育成します。特に、生成AIが生成した情報の信頼性について、考える機会を提供します。 ③ 情報セキュリティとプライバシー保護の重要性などを学ぶ機会の拡充 現代のデジタル社会では、インターネットを通じたオンラインでの情報共有が頻繁に行われています。 今後、ますます重要となる情報セキュリティとプライバシー教育の実施を通して、安全・安心なオンライン行動を取れるよう能力の育成を図ります。 情報セキュリティに関しては、ICTサービス利用時における強力なパスワードの設定や、個人情報保護の重要性等に関する理解を深めていきます。 また、小学校や中学校でのプライバシー保護の重要性を学ぶ機会を拡充し、児童・生徒自身がSNS利用に関する注意点やプライバシー保護の重要性等について自主的に考え、行動するよう促します。 ④ デジタル・シチズンシップ教育の推進 オンライン上での適切な行動やコミュニケーション等の重要性の高まりを踏まえ、デジタル・シチズンシップ教育を通して、他者を尊重し、ネットいじめや嫌がらせ等を防ぐための行動規範の確立を図ります。 「3.児童・生徒の情報活用能力の育成」に関する今後の取組み予定 取組み内容 ICTリテラシー教育及びデジタル・シチズンシップ教育の推進 令和6年度取組み予定 指導指針の策定 令和7年度取組み予定 指導指針に基づく取組みの推進 令和8年度取組み予定 新たなICT動向を踏まえた指導指針の改定検討 令和9年度取組み予定 改定指導指針に基づく取組みの推進 令和10年度取組み予定 研修の実施及び効果検証、今後の研修実施方針の検討 4.働き方改革の推進 区教委では、教員の業務負担軽減を通して子どもたちと向き合う時間の拡充を図るため、ICTを活用した教員の働き方改革を推進していきます。 (1)学習系・校務系のネットワーク環境の統合による利便性の向上 区立小中学校には、教員が授業で利用する学習系ネットワーク(インターネット接続用ネットワーク)と成績処理などで利用する校務系ネットワーク(インターネットと接続しない閉域ネットワーク)という2種類のネットワークが存在します。 このうち、区では令和2年度に実施した全児童・生徒へのGIGA端末配備にあたり、まず学習系ネットワークを刷新しました。 GIGA端末の配備前の従来のインターネット接続用ネットワークは、全ての小中学校が区施設(1拠点)を経由してインターネット接続する仕組み(次ページの図の左側に記載の「センター集約接続」の形態)としていましたが、全小中学校に5万台規模で配備するタブレット型情報端末からのインターネット通信を特定の拠点に集約して接続させた場合、通信帯域が大幅に不足し、接続遅延や接続不可能な端末が多数発生することが想定されました。 そのため、従来のインターネット接続用ネットワークに加え、全小中学校に専用のインターネット回線を1本ずつ引き込み、各学校から直接インターネット接続できるネットワーク(次ページの図の中央部に記載の「ローカルブレイクアウト」の形態)を整備するとともに、従来のセンター集約接続型ネットワークを廃止し、ローカルブレイクアウト型ネットワークに完全に移行しました。 現在、区では教員が授業で利用する学習系ネットワークと成績処理などで利用する校務系ネットワークの統合に向けて、十分なセキュリティ対策を実装したうえで準備を進めています。(具体的な統合イメージは次ページの図を参照) 今後、成績処理等に伴うデータ入力作業の負荷軽減を図るとともに、両ネットワークの統合により、これまで校務系、学習系それぞれのネットワークに存在していた児童・生徒の学びに関する情報を、データ連携に伴いクラウド上のデータベースに集約していきます。 それらを教育ダッシュボードで一元管理し、個々の児童・生徒の状況を迅速かつ的確に把握するとともに、効率的な成績処理等を行うなど、さらなるデータ活用を通して教員の事務負担軽減、働き方改革等の取組みを推進していきます。 (「現状のネットワーク構成」、「過渡期のネットワーク構成」、「目指すべきネットワーク構成」のイメージ図が挿入) (2)教員リモートワーク環境の整備及び推進 教員がリモートワーク端末を活用し、教員自身の希望や必要性等に基づき、学校内外で様々な業務を実施できる環境を目指します。 リモートワーク端末使用時の注意事項や業務場所及び業務時間等をまとめたガイドラインの整備及び推進を図るなど、教育ICT推進を通して教員の業務環境を継続的に改善していくことで、教員の働き方改革を促進するとともに、教員が子どもたちと向き合う時間を創出していきます。 (3)デジタル採点システムの導入 教員の業務負担軽減の施策として一部の学校に試行的に導入したデジタル採点システムを段階的に拡充していきます。これにより、大量の解答データを高速かつ正確に処理することができ、教員の採点業務時間及び負担の軽減や採点結果を返却するまでの時間のさらなる短縮を目指します。 また、デジタル採点システムを通して正答率の分析などを行うことにより、学習指導の充実も目指します。 (4)Web会議ツール等を活用したコミュニケーションの向上及び活性化の推進 令和3年度より運用を開始したMicrosoft Teams等のグループウェア(注:P38の用語解説を参照)の活用をさらに拡充し、既に実施している区教委と教員間での情報共有に加え、将来的には区長部局における情報化推進を担当するDX推進担当課と連携し、区教委、教員及び区長部局の三者間での情報共有を検討します。グループウェア機能の一部であるファイル共有機能やチャット機能及びオンラインミーティング(注:P37の用語解説を参照)機能等の活用をより推進していきます。 また、区が全庁的に進めている環境マネジメントシステムの取組み(ECOステップせたがや)も踏まえ、教員用タブレット端末を活用したペーパーレス化の取組みを進めることで、配布資料印刷時に発生する印刷コストや作業時間等の削減を図るとともに、会場までの移動時間等も削減し、関係者間での円滑な情報共有やオンラインミーティング時のレコーディング機能を活用したミーティング欠席者への情報提供等を通して、コミュニケーションの向上及び活性化をより一層、推進していきます。 「4.働き方改革の推進」に関する今後の取組み予定 取組み内容1 学習系・校務系のネットワーク環境の統合 令和6年度取組み予定 統合環境の整備、一部運用 令和7年度取組み予定 統合環境の運用 令和8年度取組み予定 新たなICT動向を踏まえた統合環境の評価 令和9年度取組み予定 評価結果に基づく取組み 令和10年度取組み予定 次期環境整備に向けた仕様検討 取組み内容2 教員リモートワーク環境の整備及び推進 令和6年度取組み予定 教員リモートワーク環境の整備、一部運用 令和7年度取組み予定 教員リモートワーク環境の運用 令和8年度取組み予定 新たなICT動向を踏まえた教員リモートワーク環境の評価 令和9年度取組み予定 評価結果に基づく取組み 令和10年度取組み予定 次期環境整備に向けた仕様検討 取組み内容3 Web会議ツール等を活用したコミュニケーションの向上及び活性化の推進 令和6年度取組み予定 Web会議ツール運用指針の作成、全校展開 令和7年度取組み予定 Web会議ツールの運用 令和8年度取組み予定 新たなICT動向を踏まえた評価、検証 令和9年度取組み予定 評価・検証結果に基づく取組み 令和10年度取組み予定 Web会議ツールの運用 5. 生成AIの教育利用の促進 (1)生成AIの教育利用に関する区の基本的な考え方 生成AIは、国内外を問わず様々な場面で生産性の向上等に向けた活用が進んでいますが、これからの時代を生きる子どもたちにとっても、新たな学びを深めていく上で重要なツールとなる可能性を秘めています。 区では、生成AIがどのような仕組みで動作しているかという理解や、どのように学びに活用していくかという視点で、これからの時代を生きる子どもたちが生成AIを効果的に使いこなすための力を意識的に育てていく姿勢が重要と考えています。 同時に、教育利用にあたっては、利用規約の遵守はもとより、事前に生成AIの性質やメリット・デメリットについての理解を深めるとともに、生成AIにすべてを委ねるのではなく、自己の判断や考え方が重要であることを十分に理解させ、発達の段階や生徒の実態を十分に考慮し、そうした教育活動が可能か否かを見極めることが重要と考えています。 生成AIの分野においては、技術革新やサービス開発が飛躍的なスピードで進展しつつありますが、その一方で、子どもたちがAIの回答を鵜呑みにするのではないか等の懸念も指摘されています。こうした状況を受け、文部科学省は令和5年7月に「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を公表しました。 また、学習指導要領では「情報活用能力」を学習の基盤となる資質・能力と位置づけ、情報技術を学習や日常生活に活用できるようにすることの重要性を強調しています。 以上を踏まえ、区では今後、国のガイドラインを踏まえつつ、個別の学習活動での活用適否については、学習指導要領に示す「資質・能力の育成を阻害しないか」を教育活動の目的を達成する観点で効果的か否かで判断します。こうした判断を迅速・適切に行うため、教員のAIリテラシー向上を支援していきます。 ① 現時点での活用が有効な場面の検証及び限定的な利用の開始 個人情報保護やセキュリティ、著作権等に十分留意しつつ、パイロット的なAI活用の取組みを進め、成果・課題を十分に検証し、今後の更なる議論の発展に繋げます。 ② AI時代に必要な資質・能力の向上及び適切な利用の推進 教員研修や校務での適切な活用に向けた取組みを研究し、教員のAIリテラシー向上や働き方改革に繋げます。 (2)生成AI活用の適否に関する考え方 前述の基本的な考え方を踏まえた上で、区として「活用が考えられる例」と「適切ではないと考えられる例」を以下のとおり示し、生成AIの適切な教育利用を促進します。 ①活用が考えられる例 ・ICTリテラシー教育の一環として、生成AIの特性を観察、分析するため、自ら考案した様々な疑問、質問等を生成AIに回答させ、個々の回答内容を比較・分析するなどして客観的に評価すること。 ・生成AIの活用が効果的と考えられる事例を教員と児童・生徒がともに考えるとともに、その活用方法が効果的か、実際に生成AIを活用しつつ議論を深めること。 ・生成AIの活用方法を学ぶ目的で、自ら作成した文章を生成AIに修正させたものを「たたき台」とし、自分なりに何度も推敲して、より良い文章となるよう改善を重ねること。 ・情報リテラシー教育の一環として、生成AIの性質や限界等を理解するために、生成AIが生成する誤りを含む回答を教材として使用すること。 ・児童・生徒自身が生成AIをめぐる社会的議論について主体的に考え、意見交換等を行う過程で、その素材として利用すること。 ・グループワーク等の際に、児童・生徒同士で一定の議論をまとめた上で、不足している視点を見つけ、議論を深める等の目的で利用すること。 ②適切ではないと考えられる例 ・自分自身で一定程度考え、その考えをまとめようとする等の行為を経ないまま、様々な疑問や不明点等について生成AIに安易に回答を求めること。 ・生成AI自体の性質やメリット・デメリットに関する学習を十分に実施していない段階または情報モラルを含む情報活用能力が育成されていない段階で、自由に利用すること。 ・各種コンクールの作品やレポート等について、生成AIによる成果物をそのまま自己の成果物として応募・提出すること。 ・自らの感性や独創性が必要な場面、自らの率直な感想を表明する場面等で安易に利用すること。 ・特定のテーマに基づいて調べる場面で、教科書等の質の担保された教材を用いる前に安易に利用すること。 (3)教育現場における生成AI利用に際して留意すべき事項 生成AIは、何でも解決してくれるといった、いわゆる「夢のツール」ではありません。世田谷区では、教育現場において生成AIを利用する際には、以下のような点に十分に留意し、児童・生徒や教員の区分を問わず、誰もが適切な利活用を心がける必要があると考えます。 ① 情報の正確性や信頼性の評価、確認 生成AIが生成するテキストや情報は、必ずしも正確で信頼性の高いものとは限りません。特に教育分野では、正しい情報を提供することが極めて重要です。AIが生成する内容を確認し、誤った情報を拡散しないように注意する必要があります。 ② 倫理的側面や情報の偏りが生じる可能性への配慮 生成AIは過去のデータに基づいて学習するため、倫理的に問題のある内容や偏りのある内容、差別的な内容を生成する可能性があります。教育現場では公平性や多様性への配慮が求められるため、偏りのある内容が生成されていないかに注意し、必要に応じて生成結果を適切な内容に修正する必要が生じることに留意する必要があります。 ③ 教員の適切な関与 学校現場における生成AIの活用に際して、教員の果たすべき役割に変化が生じる可能性があります。教員が専門性を発揮し、人間的な触れ合いの中で行うべき教育指導や関与は、AIには代替できませんので、教員の適切な関与がこれまで以上に重要となります。 ④ データやプライバシーの保護 生成AIの利用にあたっては、機密性やのプライバシー性の高い情報など、第三者に漏えいすることによる危険性が高い情報を生成AIツールに安易に入力しないなど、十分な配慮が必要です。 ⑤生成AIの限界への認識 生成AIは、使い方によっては非常に便利で強力なツールとなりえますが、全ての教育的課題に対応できるわけではありません。AIの限界を理解し、必要な場面でAIを補完的に活用するという視点が重要となります。 (4)学校現場における生成AI活用の方向性 区教委では今後、国の「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」等を踏まえ、常に最新の情報収集に努めるとともに、先進事例を学習指導等に活かすなど、子どもたちの新たな学びを支援していきます。 「5. 生成AIの教育利用の促進」に関する今後の取組み予定 取組み内容 生成AIの教育利用の促進 令和6年度取組み予定 学校向け生成AI利用ガイドラインの検討、策定 令和7年度取組み予定 ガイドラインの普及促進 令和8年度取組み予定 新たなICT動向を踏まえたガイドラインの見直し 令和9年度取組み予定 改定ガイドラインの普及促進 令和10年度取組み予定 新たなICT動向を踏まえたガイドラインの見直し 6.ICT機器の安定運用及び確実なリプレイスの実施(老朽化対応) ICT機器は、使用年数が経過して老朽化してきています。 老朽化したICT機器は、故障や動作不良が発生する確率が高くなり、正常な教育活動を妨げる恐れがあります。 また、新しいICT機器が発売される度に、機能や性能が向上しており、古いICT機器のままでは、これらの新機能を活用することができなくなってしまいます。 さらに、ICT機器の故障に伴う修理費用や交換費用は、経費の増大につながるため、老朽化したICT機器をリプレイスすることが必要不可欠となります。 ICT機器の安定運用及び確実なリプレイス(老朽化対応)は、教育活動の円滑な運営のために不可欠であり、極めて優先度の高い取組みとなります。 (1)機器更新の方針 ・老朽化したICT機器を順次更新し、最新の技術を導入することで、教育現場における情報化環境の整備を図ります。 ・更新するICT機器は、教育現場のニーズや必要性を踏まえ、教育目的に適したものを選定します。 ・機器の更新にあたっては、省エネや環境保全に配慮し、エコロジーなICT機器を選定します。 ・更新したICT機器の運用管理については、専門の管理体制を整備し、教育現場におけるスムーズな運用を確保します。 ・教育現場のICT機器の利用状況を把握するために、運用状況のモニタリングや評価を定期的に実施します。 ・将来的なGIGA端末の更新にあたっては、国による端末更新経費補助等の動向や、全国の自治体で端末更新時期が重なることにより端末の確保が困難になる可能性等についても十分に留意しつつ、必要に応じて、各家庭で保有するタブレット型情報端末等の学校での使用(いわゆるBYOD(注:P37の用語解説を参照))の可能性も含めて検討の上、更新方針を決定します。 (2)現状把握 配備しているICT機器が耐用年数を経過し老朽化していくため現状把握が必要です。   老朽化したICT機器は故障や性能低下が発生しやすく、授業の進行に支障をきたす可能性があります。また、セキュリティ対策が不十分になり、最新のソフトウェアが利用できない場合、情報漏えいやセキュリティリスクが高まる可能性があります。 現状把握を行うことで、ICT機器の老朽化度合いや不具合の状況を把握し、必要な対応を計画的かつ効率的に行うことができます。 ①ICT機器リプレイス範囲の明確化 リプレイスの対象となるICT機器の種類や老朽化の基準、またリプレイスの範囲を明確にします。具体的には、パソコンやタブレットなどの端末機器、プリンターやスキャナーなどの周辺機器、またネットワーク機器などが対象に含まれるかどうかを検討し、必要に応じてリプレイス対象を明確にします。 ②ICT機器リプレイス時期の計画立案 ICT機器のリプレイスは、計画的に実施することが必要です。 具体的には、リプレイスの時期を計画し、各学校のICT機器の老朽化状況に応じて、優先度の高い機器から順にリプレイスを実施します。 また、リプレイスのスケジュールは、学校の授業やイベントなどのスケジュールを考慮し実施します。 ③ICT機器リプレイス後の環境整備 ICT機器のリプレイス後は、新しい機器のセットアップや設定変更、また既存のデータやソフトウェアの移行作業などが必要になります。 これらの作業は、学校の教員や担当者が行う場合もあるため、ICT機器のリプレイスにあわせて研修やサポート体制を整備するとともに、現場の負担を最小限にするための方策を検討します。 ICT機器のリプレイスには慎重な計画と準備が必要です。区教委では、ICT機器の老朽化状況を正確に把握しスムーズなリプレイスを実施します。 (3)リプレイス作業の実施 ①対象機器の現状把握 現行のICT機器の老朽化状況を確認し、更新が必要な機器を特定します。 ②新しい機器の選定 更新が必要な機器について、必要な性能や機能を考慮して新しい機器を選定します。機器の選定にあたっては、コストやメンテナンスの容易さなども考慮します。 ③機器の導入 導入する機器の仕様や設置場所、接続方法を確認し、導入作業を進めます。 導入作業にあたっては、関係者に対して事前に説明を行い、作業のスケジュールや影響範囲を共有します。 ④保守・管理 ICT機器の導入後には、定期的な保守や故障対応、セキュリティ対策などを行うことが重要となります。 保守・管理にあたっては、管理者や利用者に対して適切な情報提供や教育を行い、機器の安定的な運用を確保します。 (4)教員、児童・生徒への周知・説明 ICT機器が更新されることで、教育現場において新たな教育方法が導入される可能性があります。これにより、教育現場における学習環境が大きく変化することが予想され、教員や児童・生徒に対して新しいICT機器の使い方や操作方法、利用方法を十分に理解してもらう必要があります。 また、ICT機器のリプレイスによって、教育現場の業務プロセスが変化する可能性があります。業務プロセスの変化によって、業務の効率性が向上することが期待されますが、新しい業務プロセスの導入には教員や児童・生徒の理解と協力が不可欠です。そのため、ICT機器のリプレイスに伴う変化を事前に周知・説明し、教員や児童・生徒が変化に対応できるようにします。 ①リプレイス作業のスケジュール 具体的なスケジュールを提示します。 ②リプレイス機器の提示 リプレイス対象となるICT機器について、具体的に提示します。 ③リプレイス後の機器 リプレイス後の機器は、より高性能で使いやすく、最新のセキュリティ機能が搭載させることで、安全性を向上します。 ④リプレイス作業内容の周知 ICT機器を活用して授業を行っている教員に対し、更新作業中は一時的に機器が使えなくなる場合があることを周知します。 授業中や自習時間中にICT機器を使用する児童・生徒にも、同様に周知します。 ⑤問合せ窓口の設置 リプレイス準備、リプレイス作業及びリプレイス作業後の質問や問い合わせに対し、問い合わせ窓口を設置します。 「6.ICT機器の安定運用及び確実なリプレイスの実施(老朽化対応)に関する今後の取組み予定 取組み内容1 GIGA端末の運用及びリプレイス 令和6年度取組み予定 既存端末の運用、次期端末の仕様検討 令和7年度取組み予定 検討結果に基づくリプレイス対応(単年度または複数年度でのリプレイス) 令和8年度取組み予定 検討結果に基づくリプレイス対応(単年度または複数年度でのリプレイス) 令和9年度取組み予定 検討結果に基づくリプレイス対応(単年度または複数年度でのリプレイス) 令和10年度取組み予定 新端末運用 取組み内容2 教員用ICT機器の運用及びリプレイス(教員用インターネット端末、統合型校務支援システム用端末、複合機、校内通信ネットワーク機器等) 令和6年度取組み予定 既存機器の運用 令和7年度取組み予定 既存機器の運用 令和8年度取組み予定 新たなICT動向を踏まえた既存機器の評価、検証 令和9年度取組み予定 次期機器の仕様検討 令和10年度取組み予定 新機器への更新または既存機器利用延長 【参考資料1:国における学校教育の情報化の動向(令和元年以降)】 1.国による学校教育情報化推進計画の策定 令和元年(2019年)6月、「学校教育の情報化の推進に関する法律」(令和元年法律第47号。以下「法」という。)が成立し、公布・施行されました。法第8条第1項においては、「文部科学大臣は、学校教育の情報化の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、学校教育の情報化の推進に関する計画(略)を定めなければならない」とされており、文部科学省では、当該規定に基づき令和4年12月に「学校教育情報化推進計画」を策定しました。 同計画は、国の学校教育の情報化の推進に関する国としての施策の方向性やロードマップを示すものであり、法第9条において努力義務とされている自治体の学校教育情報化推進計画の策定に当たり参考となるよう策定されたものです。 2.学校教育の情報化の現状と課題 (1)児童・生徒の資質・能力の育成 ・日本の生徒の学力については、数学や科学に関するリテラシーは継続して世界トップレベルである一方、複数の文書や資料から情報を読み取って根拠を明確にして自分の考えを書くこと、テキストや資料自体の質や信ぴょう性を評価することなど、言語能力や情報活用能力に課題があります。さらに、我が国の生徒の生活全般における満足度は47か国・地域中43位となっています。(出典:OECD「生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA,2018))。(注:P37の用語解説を参照) ・我が国においては、デジタル機器の利用について学校よりも家庭が先行している面もあり、「ネット上でチャットをする」「1人用ゲームで遊ぶ」頻度が多いと回答した生徒の割合は、OECD加盟国の中で最も多い結果になりました。一方で、学校の授業におけるデジタル機器の利用時間は短く、OECD加盟国中最下位でありました。つまり、学校外ではゲームやチャットなど学習以外にデジタル機器を利用しているものの、学校の授業や学習において積極的にICTを活用していない状況になります。(PISA,2018)。 ・他方、「授業でもっとコンピュータなどのICTを活用したいと思いますか」という質問に対して約8割、「学習の中でコンピュータなどのICT機器を使うのは勉強の役に立つと思いますか」という質問に対して9割以上の児童・生徒が「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」と回答しており、児童・生徒のICT活用への関心や意欲が高いことが明らかになりました。(平成31(令和元)年度(2019年度)、令和3年度(2021年度)全国学力・学習状況調査)。 ・デジタルの強みを最大限に活用し、誰もが、いつでもどこでも、誰とでも、自分らしく学ぶことができ、誰一人取り残されず、一人一人の可能性が最大限に引き出され、ウェルビーイング(Well-being)(注:P37の用語解説を参照)が具現化されるような教育が、改めて求められています。世の中の様々な事象を情報とその結びつきとして捉え、情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して、問題を発見・解決したり、自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力である「情報活用能力」を、学習の基盤となる資質・能力として教科等横断的に育成していく必要があります。 ・ICTの活用が日常的になるにしたがって、利用についてのルール設定や指導が十分でない中で、児童・生徒がトラブルに巻き込まれたり、ICT機器を必要以上に長時間にわたり使用したり、健康を害したりする例もあります。また、児童・生徒が著作権に関する知識や意識を持たないまま、誤って他人の著作物等を利用してしまう可能性や、授業目的の場合は著作権者の許諾を得ずに著作物を利用できることから、授業外においても著作物を自由に利用できるという誤った認識を抱いてしまう可能性もあります。子どもたちの未来の成長を支えるとともに、国際的ルールを遵守する観点からも、情報社会において適正な活動を行うための基になる考え方と態度である情報モラルと必要な知識を習得させる必要があります。 (2)教員の指導力の向上 ・学習指導要領の下、各教科等(各教科、特別の教科道徳、外国語活動、総合的な学習(探究)の時間及び特別活動をいう。以下同じ。)の指導を通じて育成を目指す資質・能力を着実に育成するに当たっては、ICT環境を最大限活用し、個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実していくことが重要になります。このため、デジタルを活用した新たな教育手法の開発・普及が求められます。 ・令和元年12月に文部科学省が公表したGIGAスクール構想により、1人1台端末などのICT環境が急速に整備され、今後は1人1台端末の利活用を量的にも質的にも充実させていくことが重要なフェーズとなっています。1人1台端末での学びは大部分の学校にとって初めての取組みであるとともに、教員の研修が十分ではない、教員によってはICT利活用のノウハウが不足している、地域や学校によっては利活用に遅れがみられる、などの指摘もあります。教員が子どもたちと共にデジタルに慣れ親しみ、使いこなし、適応していくとともに、それぞれが個に応じてデジタル活用のスキルを向上させていくことが求められています。 ・子どもたちにICT端末の適切な扱い方や使用のルールを指導するとともに、保護者等とも共通理解を図りながら、安全・安心に持ち帰りを行うことのできる環境づくりを実現していくことが重要です。 ・令和4年度(2022年度)入学生から高等学校における「情報Ⅰ」が新たに必履修となる一方で、一部の地方では免許外教員の割合が多いなど、教員の確保と配置の適正化に課題があります。 (3)学校ICT環境整備の推進 ・現在の子どもたちは、生まれながらにICTの恩恵を受けて育っている「デジタルネイティブ」ともいえる世代であり、鉛筆やノートのような文房具と並ぶマストアイテムとして、1人1台端末をはじめとする教育環境を整えることが必須になります。 ・国によるGIGAスクール構想により、児童・生徒1人1台端末や高速大容量通信ネットワークなどの学校ICT環境について、全国で抜本的な整備促進が進み、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響等も踏まえてGIGAスクール構想を前倒しされ、急ピッチで学校の環境整備を前進させた結果、端末の整備等の水準は世界的に見ても遜色のないものとなっています。 ・一方で、急速な整備の中で、「機器の設定による制限やベストエフォート(注:P37の用語解説を参照)での混雑などのボトルネック(注:P38の用語解説を参照)によりネットワーク回線の速度が十分ではない」、「指導者用端末などの充実した指導を行うための設備・機器や故障時のための代替機が不足している」、「学校や家庭への支援等に関する取組み状況が自治体間でばらつきがある」など、利活用を進めるに当たっての課題も各自治体で明らかになっています。教員が新しい取組みに挑戦することを躊躇せず、児童・生徒が円滑に学ぶことができる環境を実現するために、政府と学校設置者、教育現場が一体となって、明らかになった課題を一つずつ改善していく必要があります。 ・GIGAスクール構想により整備された1人1台端末は、インターネットを通じてクラウド上のデータやサービスを活用することを前提としています。このため、学校内のみならず学校外と接続するネットワークの高速・大容量化や、必要なセキュリティ対策を講じた上でクラウドを活用可能な環境整備が必要となります。 ・デジタル教科書については、国の中央教育審議会等において、全国の小中学校における実証事業の成果も踏まえながら、より効果的な学びを実現するための紙の教科書とデジタル教科書の関係性、デジタル教材との連携の在り方など、その活用の在り方が検討されており、教科書改訂に合わせてデジタル教科書を本格的に導入する動きが進みつつあります。 ・新型コロナウイルス感染症対策に伴う臨時休業が長期にわたり行われた中で、全国の教育現場では児童・生徒の学習機会の保障に向け、積極的な取組みが行われました。その結果、文部科学省において臨時休業等の非常時における端末の持ち帰りの準備状況を調査したところ、全国の公立小中学校等の95.2%から、持ち帰りについて準備済みとの回答がなされました。(令和4年(2022年)1月末時点)。また、臨時休業期間中の同時双方向型のウェブ会議システムの活用状況については、令和3年9月時点の31.2%から、69.6%(令和4年(2022年)1~2月)に増加しています。 ・「経済財政運営と改革の基本方針2023」(通称、「骨太の方針2023」)において、GIGAスクール構想については、次のフェーズに向けて周辺環境整備を含めICTの利活用を日常化させることにより、人と人の触れ合いの重要性や発達段階、個人情報保護や健康管理等に留意しながら、誰一人取り残されない教育の一層の推進や情報活用能力の育成など学びの変革や校務改善に向けた運営支援センターの全国的な設置促進・機能強化等徹底的な伴走支援の強化により、利活用状況や指導力の格差解消を本格的に進めていくと共に国策として推進するGIGAスクール構想の1人1台端末について、公教育の必須ツールとして、更新を着実に進めていく方針が示されています。 (4)学校における働き方改革の推進 ・OECDの調査によると、小・中学校ともに、日本の教員の1週間あたりの仕事時間の合計は参加国の中で最長であり、事務業務に係る時間が参加国の平均と比べて長い傾向にあるとの結果が出ています(出典:OECD「国際教員指導環境調査2018年調査(TALIS62018)」。校務の情報化などICTの活用による校務効率化により、教員の事務業務にかける時間を減少させる必要があります。 ・文部科学省による平成28年度(2016年度)の教員勤務実態調査においても、総授業時間数の増加などを理由として、小・中学校教員の勤務時間は10年前の調査と比較して増加しています。 ・令和4年(2022年)12月に文部科学省が公表した「教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査」の結果によると、教員の時間外勤務は、平成30年度(2018年度)以降、一定程度改善傾向にありますが、依然として長時間勤務の教員も多く、引き続き、取組みを加速させていく必要があります。 ・このような実態も踏まえ、文部科学省では、小学校35人学級の計画的整備や、教員業務支援員等の支援スタッフの配置拡充などに取り組んでいるが、ICTを活用して成績処理などの事務作業の負担軽減を図ることや、勤務時間管理を徹底することなども含め、デジタルを活用した学校の働き方改革を一層推進する必要があります。 ・GIGAスクール構想は学校の働き方改革にも有効であると考えられますが、ICT担当教員1人のみに負担が集中している、学習者用端末の管理等に関して業務量が増えているといった指摘があります。また、学校設置者におけるICT教育の推進体制が十分ではなく、学校や教員に対する支援が行き届いていない地方もあります。 3.国における学校教育の情報化に関する基本的な方針 国においては、学校教育情報化の現状と課題に対応するため、以下の4つの基本的な方針を定めています。 区においても、国の方針との整合性に留意し、教育の情報化を推進していきます。 (1)ICTを活用した児童・生徒の資質・能力の育成 Society5.0の到来により、更に技術革新が進んでいく新たな時代において、子どもたちには、高い志を持つことと併せて、技術革新と価値創造の源となる飛躍的な知を発見・創造することなど、新たな社会を牽引する能力が求められます。特に、児童・生徒が情報を主体的に捉えながら、何が重要かを主体的に考え、見出した情報を活用しながら他者と協働し、新たな価値の創造に挑んでいけるようにするためには、学習指導要領において学習の基盤となる資質・能力として位置付けている情報活用能力の育成が必要不可欠です。また、当該能力の着実な育成のためには、情報活用能力の育成状況について教育委員会が正確に把握できるようにすると同時に、各学校が情報活用能力育成の観点からカリキュラム・マネジメントを行うことが求められます。 (2)教員のICT活用指導力の向上と人材の確保 ICTの活用により学習指導要領を着実に実施し、学校教育の質の向上につなげるためには、各学校におけるカリキュラム・マネジメントを充実させつつ、全ての教員が各教科等において育成を目指す資質・能力等を把握した上で、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善に生かしていくことが重要です。また、従来はなかなか伸ばせなかった資質・能力の育成や、他の学校・地域や海外との交流など、今までできなかった学習活動の実施、家庭など学校外での学びの充実などにもICTの活用は有効です。 (3)ICTを活用するための環境の整備 全ての児童・生徒が、学校におけるICTの活用を「当たり前」で「日常的」なものとして利用できる学校の教育環境の整備及び安定的な維持運用が重要になります。 (4)ICT推進体制の整備と校務の改善 教員の長時間勤務を解消し、学校の働き方改革を実現するためにも、ICTの活用は極めて大きな役割を果たし得るものになります。各種調査や事務のデジタル化などにより、教員を雑務から解放し、多忙感を軽減させるという視点も重要です。   【参考資料2:令和3年9月の分散登校時におけるオンライン学習に関するアンケート調査結果(概要)】 (1)調査の主旨 令和3年9月3日から10日の分散登校期間中に実施したオンライン学習の効果を検証し、今後のオンライン学習やICTを活用した教育を充実させるため、児童・生徒、教員及び保護者を対象にオンラインによる意識調査を実施した。 (2)分散登校時のオンライン学習の概要 1)オンライン学習の日程 令和3年9月3日(金)から10日(金)までの6日間 2)オンライン学習の主な内容 ①Microsoft TeamsやZoomによる授業のライブ配信 ②ロイロノートによる双方向のやりとり ③Qubena(AIドリル学習アプリ)によるドリル学習 3)オンライン学習の様子 (「朝の会での校長講話」、「オンライン学習(児童への説明)」、「オンライン環境の提供」に関する撮影写真が挿入) (3)アンケート調査の概要 1)調査手法 児童・生徒、教員、保護者それぞれに対するオンライン学習に関する質問について、オンラインのアンケ-トフォームへ入力する手法で回答する形式とした。 2)調査期間 令和3年10月5日(火)から10月15日(金)まで(児童・生徒は29日まで) 3)回答者数 ①児童・生徒42,825人 ②教員2,004人 ③保護者14,378人 (4)アンケート内容と調査結果 1)質問内容 児童・生徒、教員、保護者それぞれに、「オンライン授業でよかったこと」「オンライン授業で困ったこと」「今後オンライン授業に期待すること」について、予め設定した選択肢の中から当てはまる項目を選ぶ(複数回答可)形式で実施した。また、自由意見欄も設け、その他気付いたことを記載できるようにした。 2)調査結果等 次ページ以降のとおり (「オンライン学習に関するアンケート調査の結果」をまとめた図が挿入) 【参考資料3:用語解説(アルファベット、50音順)】 BYOD(Bring Your Own Device) 個人が私的に所有しているPCやタブレット型情報端末等を、業務や学校等で使用する利用形態のこと。 GIGAスクール構想 文部科学省が2019年(令和元年)12月に発表した教育改革案のこと。全国の児童・生徒に1人1台の学習用端末やクラウド活用を踏まえたネットワーク環境の整備を行い、個別に最適化された教育の実現を目指すことを目的としている。 ICT(Information and Communication Technology) 情報通信技術。IT(Information Technology)の情報技術に加えて「コミュニケーション」(伝達性、通信性、交信性)が表現されている点に特徴があり、ネットワーク通信による情報・知識の共有が念頭に置かれている。 ICTインフルエンサー ICTを活用した授業の実践に取組み、研究会等を通じて成果を発信する教員のこと。 ICTリテラシー教育 児童・生徒がICTを効果的に活用し、情報を収集・評価・利用する能力や技術を身につけられるように指導すること。 Microsoft Teams テキストチャットやファイル共有、オンライン会議等が可能なマイクロソフト社が提供するツールのこと。 OECD(経済協力開発機構) ヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め38ヶ国の先進国が加盟し、①経済成長、②貿易自由化、③途上国支援を目的とした国際機関のこと。 PISA(国際学力調査) 義務教育修了段階(15歳)を対象にOECD(経済協力開発機構)より、2000年から3年ごとに実施されている国際的な学力調査のこと。 STEAM教育 Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の5つの教育分野を表す単語の頭文字をとったもので、教科横断的な教育のこと。 Well-being(ウェルビーイング) 教育現場において、教員及び児童・生徒が心身ともに健康で、持続的に幸福な状態のこと。 オンラインミーティング PCやタブレット型端末等で、インターネットに接続し、遠隔で行う会議のこと。 教育ICT基盤 教育現場での情報通信技術(ICT)を活用する上で必要不可欠なネットワーク、サーバー等を指し、情報システムを支える基盤のこと。 教育ダッシュボード 児童・生徒の学習状況や成績情報及び出席状況等の教育関連データを一元管理し、表やグラフ等で、可視化できるツールのこと。 クラウドサービス データやソフトウェアを、ネットワークを介して利用者に提供するサービス。利用者はクラウドサービス事業者が提供するサービスを利用する。 グループウェア 組織に所属する人々のコミュニケーションを円滑にし、業務等の効率化を図るためのソフトウェアのこと。グループウェアには「スケジュール管理」、「メンバーの連絡先一覧」などの機能が搭載されていることが多く、例えば、メンバー間での連絡、資料データやスケジュール等の共有が可能となる。 生成AI トレーニングされたデータに基づいて高品質なテキストや画像、その他のコンテンツを生成することができるディープラーニングAIモデル。入力された訓練データの規則性や構造を学習し、同様の特性を持つ新しいデータを生成することが可能。 超スマート社会(Society5.0) 狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」として、第5期科学技術基本計画(平成28年1月閣議決定)された概念のこと。 デジタル教科書・教材 デジタル機器や情報端末向けの教材のうち、既存の教科書の内容と、それを閲覧するためのソフトウェアに加え、編集、移動 、追加、削除などの基本機能を備えるもの。 ベストエフォート 通信回線での理論上の最大通信速度のこと。または、その最大通信速度に可能な限り近づけるように設計した通信回線環境のこと。 ボトルネック 情報システムや通信回線において、全体の性能や効率を大きく制限する要素や箇所のこと。 リプレイス ICT機器等のハードウェアにおいて、老朽化したICT機器を新しいICT機器に入れ替えること。