学校等における医療的ケア実施ガイドライン 別冊 学校における人工呼吸器に関するマニュアル 世田谷区教育委員会事務局 令和6年3月 はじめに   教育委員会では、医療的ケアを必要とする児童・生徒に対して、平成30年(2018年)度から喀痰(かくたん)吸引(きゅういん)、経管(けいかん)栄養(えいよう)等の配慮を必要とする区立小学校の児童に試行的に看護師を配置した。令和2年度からは区立小・中学校、幼稚園において、本格的に看護師を配置し、医療的ケア児と家族の意向を踏まえながら、教育委員会、区立小・中学校、幼稚園が連携し、安全で安心な学校、幼稚園、放課後の生活の実現に取り組んできた。 しかしながら、人工呼吸器の管理は個別性が高く、高度な医療的ケアであることから、保護者に人工呼吸器の管理、すなわち、校内待機をお願いしてきた。一方、東京都立の特別支援学校では令和2年度から、管理体制が整った学校において校内における人工呼吸器の管理を医療的ケアとして開始している。 令和3年9月18日に医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律が施行された。同法では学校の設置者に対し、医療的ケア児に適切な支援を行うことが責務とされ、家族の離職防止や医療的ケア児の自立の観点から、医療的ケア児が保護者の付添いがなくても、適切な医療的ケアその他の支援を受けられるように必要な措置を講ずるものとされた。さらに、人工呼吸器の管理は個別性が高く、高度な医療的ケアであるものの、人工呼吸器そのものは誤操作や誤動作を防ぐ安全装置が搭載され、当然のことながら医療的ケア児が在宅で使用する際は、その管理を家族が担っている。日本小児医療保健協議会 重症 心身障害児(者)・在宅医療委員会も「学校における医療行為の判断、解釈についてのQ&A」において、「在宅用の人工呼吸器を主治医の指示に従い使用すれば、安全性は高い。日常的な移動、電源、スイッチのオン、オフで人工呼吸器に異常が発生する可能性はほとんどない。」と見解を示している。これらの現況を踏まえ、世田谷区立小・中学校、幼稚 園においても人工呼吸器の管理を保護者ではなく、学校医療的ケア看護師が行う体制を整備していく必要がある。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          本マニュアルは、これまで区立小・中学校、幼稚園で医療的ケアを行ってきた実績を踏まえ、人工呼吸器の管理を保護者から学校医療的ケア看護師へ安全に移行するための手順を定めたものとなっている。人工呼吸器の管理以外の医療的ケアの実施と比べて、さまざまな過程を経てから完全実施となるため時間がかかるが、安全に移行、実施するためには必要不可欠である。医療的ケア児とその家族の意思を尊重し、学校、幼稚園の関係者および教育委員会が相互に理解を深めたうえで、安全に人工呼吸器の管理の管理を行えるようにしていくためにも、本マニュアルと学校等における医療的ケア全般について定めた「学校等における医療的ケア実施ガイドライン」とあわせて活用していただければ、幸いである。   令和6年3月 世田谷区教育委員会事務局   目次 T 人工呼吸器の管理の実施の開始前の準備について 1 人工呼吸器に関する基礎知識 2 本ガイドラインで使用している用語の解説 3 関係者の役割 4 学校医療的ケア看護師を支える体制 5 人工呼吸器の管理の実施条件 6 人工呼吸器の管理を安全に実施するための「12の観点」 U 人工呼吸器の管理の実施に向けて 1 人工呼吸器の管理の実施に向けた留意点 2 人工呼吸器の管理の実施に向けた基本的な進め方 V 保護者の付添いから看護師対応への段階的な移行に向けて 1 当該医療的ケア児の視点 2 保護者の視点 3 人工呼吸器の管理の移行に向けた注意点 4 人工呼吸器の管理の移行の基本的な進め方 5 各移行段階の内容 6 校外等における人工呼吸器の管理 7 一時的着脱への対応 W 学校における緊急時・災害時対応について 1 緊急時対応の準備 2 緊急時の確認事項 3 災害時に備えた物品の確保について X 様式集 1 医療的ケア指示書 2 12の観点[園児・児童・生徒の状況確認用] 3 12の観点[園児・児童・生徒の環境確認用] 4 移行計画票 Y 参考資料 T 人工呼吸器の管理の実施の開始前の準備について                   人工呼吸器の管理は、個別性が高く、高度な医療的ケアであることから、人工呼吸器の管理の実施を開始する前に、一人一人の当該医療的ケア児の状態及び学校における体制について、確認・整理を行う。   1 人工呼吸器に関する基礎知識 (1)在宅人工呼吸療法について    在宅人工呼吸療法とは、疾患により自発的に十分な呼吸をすることができない場合に、長期かつ持続的に人工呼吸器により呼吸の補助を行いながら、在宅で日常生活を送るものである。 対象は、安定した病状にあり、在宅での人工呼吸療法を行うことが適当と医師が判断した場合である。    在宅人工呼吸療法は、常時行う場合と、夜間などの特定の時間のみ行う場合があるが、いずれの場合でも生命維持の基本的な営みである呼吸を補助するのが人工呼吸器である。人工呼吸器がない場合や、適切に使用できない場合には、呼吸がうまくできずに苦しくなり、生命維持の危機に陥ることになる。    一方で、在宅人工呼吸療法は病院外で生活を可能にするものであり、在宅で使用する人工呼吸器は十分に安全性が確保された医療機器である。人工呼吸器を使用する子どもが、使用しない子どもと共に学び、共に育つことは可能なこととなっている。   (2)在宅人工呼吸療法が必要になる疾患等    子どもが継続した呼吸の管理を必要とする疾患には、主に下表のものがある。子どもが在宅人工呼吸療法の対象となるのは、生まれつきの疾患に起因することが多い。    肺の問題 @間質性肺炎  酸素と二酸化炭素のガス交換を行う肺の奥にある肺胞に炎症が起こり、呼吸困難になる。 A慢性呼吸不全  新生児慢性肺疾患などが原因となって呼吸困難になる。 気道の問題 @咽頭軟化症  咽頭が脆弱であるために、息を吸うときに気管の狭窄を起こし、呼吸困難になる。 A気管・気管支軟化症  気管・気管支が脆弱であるために、息を吐くときに気管・気管支の内腔が保たれずに狭窄し、呼吸困難になる。 B二次的な軟化症・狭窄  上記の軟化症による気管狭窄のほかに、胸郭(肋骨で囲まれた空間)や脊柱(背骨)の変形により気管・気管支が圧迫される二次的な軟化症や狭窄により、呼吸困難になる。 呼吸を司る呼吸中枢の問題 @中枢性肺胞低換気症候群  遺伝子変異による疾患で、主に睡眠時のガス交換がうまくできずに二酸化炭素がたまってしまうため、人工呼吸器による呼吸の補助が必要になる。 A脳炎・脳症  脳炎・脳症などにより、呼吸中枢が損傷を受け、呼吸がうまくできずに呼吸困難になる。 Bキアリ奇形  頭蓋骨内にあるべき小脳や脳幹が、頭蓋骨の出口の穴を通り、脊柱管内に入り込む奇形により、呼吸中枢が影響を受けて呼吸困難になる。 呼吸を担う呼吸筋の問題 @脊髄性筋萎縮症  遺伝子変異による疾患で、筋肉を動かすためにはたらく運動神経細胞が変化し、筋肉が萎縮するため、呼吸困難になる。  A筋ジストロフィー  遺伝子変異による疾患で、筋肉が変性、壊死を起こして筋肉が萎縮するため、呼吸困難になる。 Bミオパチー  ミオパチーとは筋ジストロフィー以外の筋疾患の総称で、呼吸筋への障害により、呼吸困難になる。 その他 タナトフォリック骨異形成症による胸郭の低形成 遺伝子変異による疾患で、骨形成が不十分なことにより、胸郭が狭く、呼吸困難になる。 (3)人工呼吸器を使用する子どもに対する留意点    人工呼吸器を使用する子どもは、人工呼吸器を使用する大人と比較し、以下の点に留意する必要がある。    @ 医療への依存度が高い。     他の疾患を合併していることや、障害があることなどにより、通院や入院のために学校生活に影響を与えることがある。   A 利用できる障害福祉サービスが少なく、保護者の負担が大きい。     自宅においても、日常生活のさまざまな場面で支援が必要であることに加え、多様な医療的ケアを必要とすることが多く、保護者が担うところが大きい。   B 意思表示や意思疎通が難しいことがある。     子どもが自身の意思を表示することや、意思疎通を図ることが難しい場合があり、子どもの思いを保護者からの情報に頼らざるを得ない場合がある。   C 成長に伴う変化     成長の早さは子どもごとに異なるが、成長に伴って、気管切開のチューブの大きさや気管内吸引カテーテルの長さが変化するほか、その他の医療的ケアの内容が変化する。また、疾患や障害の状態が変化していく場合もある。 (4)人工呼吸器について    人工呼吸器には大きく分けて、気管切開下陽圧人工呼吸器(TPPV)と、マスクによる非侵襲性人工呼吸器(NPPV)の2種類がある。    人工呼吸器の管理は、医療的ケアに該当し、学校医療的ケア看護師、家族・本人が行うが、緊急時にはその場に居合わせた人が緊急時対応マニュアルに従い、生命と安全の確保に尽力することが基本であり、重要である。      @ 気管切開下陽圧人工呼吸器(TPPV)     気道が確保できることから、安定して換気が可能になり、気管切開部から気道分泌物を直接吸引できる。しかし、気道損傷や気道の肉芽で出血や誤えん・挿管関連肺炎を起こしやすくなる。また、会話が難しく、食事の経口摂取に工夫が必要である。       A 非侵襲性人工呼吸器(NPPV)     マスク式呼吸器療法ともよばれ、気管切開を回避でき、気道損傷がなく、挿管関連肺炎を起こさない。会話ができ、食事の経口摂取も可能である。しかし、排痰管理が必要であり、人工呼吸器の使用時には、換気されているかの観察が重要である。肺のケアを行うことで、肺胞を膨らませて一回換気量を増やすことや、肺胞が膨らまされて排痰を促すことを目的としている。また、進行性の神経筋疾患の呼吸障害に対しては、気管切開を回避しながら夜間のみまたは終日行うなど、個々の状態に応じて使用時間や使用頻度は異なる。   一般的な人工呼吸器の仕組みの図があります。    2 本ガイドラインで使用している用語の解説 (1)学校    本ガイドラインでの「学校」については、世田谷区立小学校・中学校・幼稚園・認定こども園を指す。 (2)当該医療的ケア児    本ガイドラインでの「当該医療的ケア児」については、小学校・中学校・幼稚園・認定こども園に在籍し、学校(園)生活において人工呼吸器を装着し、その管理を必要とする児童・生徒・園児を指す。 3 関係者の役割   「学校等における医療的ケア実施ガイドライン」において、学校等における医療的ケアでの役割を示しているが、ここでは人工呼吸器の管理の点から、重要な関係者の役割を示す。      学校での生活における関係者の役割の図があります。 (1)学校長・園長   @ 学校における人工呼吸器の管理に関する総括(実施の最終判断)   A 校(園)内委員会の招集、実施運営   B 本人、保護者、関係者等への説明、相談対応、支援   C 各教職員の役割分担の明確化   D 人工呼吸器の管理の実施のための校内環境の整備   E 区への各種報告   F 主治医、医療的ケア指導医、学校医療的ケア看護師との連絡調整   G 緊急時の体制整備   H ヒヤリハットを含む事故、緊急事態が発生した際の対応 (2)教職員   @ 学校医療的ケア看護師との情報共有、連携   A 人工呼吸器の管理の実施に関わる環境整備   B 保護者や本人への説明と相互理解   C 緊急時対応マニュアルの作成協力   D 緊急時対応と事故防止対策の検討   E 人工呼吸器に関する知識の習得    (3)養護教諭   @ (2)の教職員の内容   A 学校医療的ケア看護師、主治医、医療的ケア指導医と教職員との連携支援   B 医療的ケア児の健康状態の把握(学校医療的ケア看護師と連携)   C 人工呼吸器に関する研修会の企画・運営への協力 (4)学校医療的ケア看護師(会計年度任用職員)   @ 教職員や保護者との情報共有、連携   A 人工呼吸器の管理を実施するための医療器具や備品等の在庫管理   B 保護者等の協力を得て、人工呼吸器の製造販売元から取り扱い方法の説明・確認   C 医療的ケア指示書に基づく個別実施マニュアル、緊急時対応マニュアル等の作成   D 当該医療的ケア児のアセスメント、健康管理   E 人工呼吸器の管理の実施, 記録、管理、報告   F 教職員や当該医療的ケア児への人工呼吸器に関する対応の助言   G 主治医、医療的ケア指導医、訪問看護師、医療機器製造販売元との情報共有、連携   H 緊急時の対応と事故防止対策についての助言   I 新BOP学童クラブの医療的専門看護師、児童課看護師との連携・引継ぎ   J ヒヤリハット事例や事故失敗発生時の報告、原因究明等への協力 (5)学校包括支援員、特別支援学級支援員、幼稚園・認定こども園介助員(会計年度任用職員)   @ 当該医療的ケア児の介助や支援   A 教職員や学校医療的ケア看護師との情報共有、連携 (6)学校生活サポーター(有償ボランティア)    医療的ケア児の見守り (7)教育委員会事務局   @ 当該医療的ケア児の就学・通学相談、支援   A 学校との連携、学校の環境整備   B 本マニュアルや各種様式の改訂   C 医療的ケア指導医の委嘱、学校医療的ケア看護師の配置   D 特別支援学級支援員、学校生活サポーター等の配置   E 人工呼吸器の管理に関わる予算措置   F 関係機関との情報共有   G 人工呼吸器の管理に関わる人材の確保、専門性向上のための研修の実施 (8)主治医   @ 人工呼吸器の管理の指示書の作成   A 緊急時対応についての指示、助言   B 個別の手技に関する学校医療的ケア看護師への指導   C 学校への情報提供   D 個別実施マニュアル、緊急時対応マニュアルへの指導、助言、確認   E 医療的ケア指導医との連携と情報共有   F 人工呼吸器に関する研修への協力   G 本人や保護者への説明 (9)医療的ケア指導医   @ 主治医との情報共有、連携   A 主治医への実施状況報告   B 人工呼吸器の管理の実施状況の把握、確認、指導   C 当該医療的ケア児、教職員、学校医療的ケア看護師等への指導・助言   D 個別実施マニュアル、緊急時対応マニュアルへの指導、助言、確認   E 緊急時対応に関する指導・助言   F 人工呼吸器に関する研修への協力   (10)学校医、学校歯科医、学校薬剤師   @ 当該医療的ケア児の学校生活における指導、助言   A 主治医や医療的ケア指導医との連携 (11)保護者   @ 学校における人工呼吸器の管理の実施体制の理解と協力   A 当該医療的ケア児の健康状態の学校への報告   B 学校への情報提供、連携への協力   C 緊急時対応、緊急時の連絡手段の確保   D 主治医へ指示書の作成の依頼と学校への提出   E 人工呼吸器に必要な医療器具等の準備   F 学校と主治医、人工呼吸器の製造販売元との連携体制構築への協力 4 学校医療的ケア看護師を支える体制   「学校等における医療的ケア実施ガイドライン」に記載の「学校医療的ケア看護師を支える体制」に基づき、学校医療的ケア看護師と関係者は連携し、医療的ケア児の人工呼吸器の管理を行う。 5 人工呼吸器の管理の実施条件   人工呼吸器管理の実施のための各条件を十分に確認するとともに、個々の当該医療的ケア児の状態に応じて、個別の対応について検討することが重要である。 (1)実施対象となる当該医療的ケア児の状態の確認    以下の通り、登校(園)状況や体調が安定しており、かつ日常の学級活動(授業)への参加が可能であることが条件となる。      @ 体調が整っており、安定した登校(概ね週3日程度以上)ができている当該医療的ケア児とする。   A 新入生については、入学後に新しい環境での生活を経験するとともに、体調を維持し安定して登校できるかを見極める必要があるため、5月の連休後の体調を把握するまでの概ね5月下旬頃までを健康観察期間の目安とする。   B 概ね5月下旬頃までの健康観察期間に、体調不良等による欠席などがあり、十分な健康観察が実施できなかった場合は、6月以降も健康観察期間を延長して、健康観察を行う。     その際は、主治医や医療的ケア指導医の助言を踏まえつつ、校(園)内委員会で検討するとともに、今後の見通しについて丁寧に保護者へ説明する。   C 転入生については、前籍校(園)での登校(園)実績を踏まえ、総合的に判断する。    上記の各条件を基本とするが当該医療的ケア児の状態によっては、主治医、学校医療的ケア指導医の助言を踏まえ、学校(園)長による総合的な判断が必要である。 (2)主治医による指示    医師が常駐していない学校の状況を踏まえたうえで、主治医が以下の点を医療的ケア指示書に記載していること。      @ 保護者以外の者であっても、学校における人工呼吸器管理が可能であること。    ※ 医療的ケア指示書の別紙である「人工呼吸器の管理」に関する指示書が提出されていることをもって、学校医療的ケア看護師による人工呼吸器管理が可能であるとみなすことができる。   A 体調の急変や人工呼吸器の不具合等があった場合に、所定の医療機関に搬送するまでの緊急時の管理や対応の指示に関すること。 (3)医療的ケア指導医の指導・助言    主治医が作成した医療的ケア指示書をもとに、人工呼吸器管理が校内で安全かつ適切に実施できるか判断し、人工呼吸器の管理が学校で安全に実施できる体制を構築するための指導・助言が指導医検診記録・意見書に記載されていること。 (4)学校の管理体制    学校では校(園)長が中心となり、校(園)内委員会等を活用して、以下の点について状況確認や実施に向けて取り組むなどし、学校医療的ケア看護師が人工呼吸器管理を安全に実施できる体制の構築を図る。   @ 教職員が人工呼吸器管理に関する基礎的な知識をもち、緊急時にはマニュアルに従って、的確に対応できること。   A 学校医療的ケア看護師や教職員が、人工呼吸器を使用する当該医療的ケア児の健康状態について、的確に把握できるようにすること。   B 緊急時に必要な非常用電源、必要物品が確保されていること。蘇生バッグが当該医療的ケア児に合ったものが用意されていること。また、蘇生バッグの取り扱いについて、主治医又は医療的ケア指導医から指導を受け、個別のケースに合わせた研修を定期的に行うこと。   C 緊急事態発生時に備え、緊急時対応訓練を年間1回以上実施し、教職員で緊急時対応の内容を確認すること。人工呼吸器管理の実施までに、緊急時対応訓練を実施すること。   D 保護者の緊急時の連絡手段等について事前に配備を行うこと。   E 学校の近隣の医療機関や主治医と事前に連携を取っておくこと。    (5)情報の共有    人工呼吸器の管理について、学校、教育委員会、保護者、学校医療的ケア看護師、主治医、学校(園)医及び医療的ケア指導医との情報共有ができる体制の構築を図る。      @ 人工呼吸器の管理を実施するに当たり、管理職、学校医療的ケア看護師等が主治医を訪問し、医療的ケア指示書の内容等について、直接、確認すること。   A 担任教諭や学校医療的ケア看護師は、保護者から当該医療的ケア児の状態を聞き取り、主治医の指示・助言内容を記録し、関係する教職員と共有すること。   B 校(園)内委員会では、人工呼吸器の管理を安全に実施するための「12の観点」を基に、綿密な協議を行うこと。   C 教育委員会(支援教育課)は必要な調整を担うとともに、情報を把握する。 (6)保護者の理解と継続的な協力    保護者に対して、人工呼吸器の管理についての理解と、安全かつ適切に実施するために、以下の協力を依頼する。   @ 保護者は、医療的ケアを申請した際に、緊急時に、医療機関とは違い医療器具が充分に備わってはいない学校での対応に関する制約等について主治医又は指導医、管理職等から説明を受け、学校と共通の認識をもつこと。   A 保護者は、当該医療的ケア児の血中酸素飽和度が低下した際の手技等について、学校医療的ケア看護師や教職員に確実に引継ぎ、必要時には対応できるようにすること。   B 学校での安全な人工呼吸器の管理のために協力を申し出た場合、保護者は学校と主治医、人工呼吸器の製造販売元等との連携支援に協力すること。   C 緊急時対応について、保護者は学校と協力・連携を図り、保護者は学校と確実に連絡を取ることができる手段を確認すること。   D 以下のような状況において、学校が代替案を検討するなどしても、真に付添いがやむを得ないと判断し、今後の見通しを示して協力を申し出た場合、保護者は学校と当該医療的ケア児の人工呼吸器の管理やその他の医療的ケアについて話し合い、付添い(人工呼吸器の管理を含む医療的ケア)等に協力すること。    ア)人工呼吸器を使用する当該医療的ケア児の体調や登校実績が不安定な場合    イ)校(園)内の医療的ケアの実施体制が整わない場合(学校医療的ケア看護師の確保が困難である等)     6 人工呼吸器の管理を安全に実施するための「12の観点」   保護者から人工呼吸器の管理について医療的ケアの申請があった際には、学校における医療的ケアについて検討・協議する校(園)内委員会において、教育委員会(支援教育課)、学校が保護者から聞き取った当該医療的ケア児の状況、登校実績や学校での健康状態および校(園)内体制等を確認し、次ページの「12の観点」に基づいて、検討・協議を行う。   なお、実際の確認の際は第X章にある[園児・児童・生徒の状況確認用]と[園児・児童・生徒の環境確認用]の様式を活用する。   「12の観点」は、学校で人工呼吸器の管理を行うにあたり、当該医療的ケア児の状態や学校の管理体制等の全体像を確認・把握し、検討・協議を行うためのものであり、この観点のみで実施の可否を判断するものではないことに留意する。   人工呼吸器の管理を安全に実施するための「12の観点」の表があります。 U 人工呼吸器の管理の実施に向けて                           1 人工呼吸器の管理の実施に向けた留意点  人工呼吸器の管理の実施に向けては、これまで学校で行ってきた医療的ケアとは異なり、校(園)内での協議を十分行う必要がある。そのため、従来の医療的ケアの開始までの手続きに加えて、校(園)内委員会を複数回実施するなどの対応が求められる。   「学校等における医療的ケア実施ガイドライン」の内容も踏まえた上で、以下を参考に進めていく。   実施までのフロー図   相談・聞き取り、医療的ケア児の観察 ・教育委員会で保護者からの相談、聞き取り、当該医療的ケア児の観察を行う。 ・人工呼吸器の管理を希望された場合は、教育委員会が「12の観点」を踏まえた説明と聞き取りを行う。教育委員会で説明と聞き取りが難しい内容(学校での状況や医学的な観点)については学校に引き継ぐとともに、主治医の見解の観点で保護者が把握していない場合は、保護者へ主治医に確認しておくように伝える。 保護者説明、人工呼吸器管理を含む医療的ケア実施申請書の提出 教育委員会から保護者に実施に向けた説明を行い、医療的ケア実施申請書の提出を依頼する。 校(園)内委員会(第1回目) ・「12の観点」を踏まえた説明と聞き取りについて、教育委員会で行うことが難しい内容については、教育委員会から引き継いだ学校(教員と学校医療的ケア看護師)が行う。 ・聞き取りと学校の状況を踏まえた「12の観点」により実施の可能性を協議する。 ※「12の観点」による協議の結果、その時点で実現が難しい場合は、保護者への説明と保護者による実施を依頼する。 主治医による指示書の作成 ・保護者は、学校で医療的ケアを実施するにあたって、主治医に医療的ケア指示書の作成を依頼する。 ・副校長(副園長)、担任、当該医療的ケア児の支援を行う学校医療的ケア看護師も同行し、医師の見解を聞くとともに、必要に応じて学校の状況を説明する。 ・保護者は、作成された医療的ケア指示書を学校に提出する。 学校医療的ケア看護師によるマニュアル作成 学校医療的ケア看護師は、医療的ケア指示書に基づき、個別実施マニュアル、緊急時対応マニュアルを作成する。 医療的ケア指導医による意見書の作成 教育委員会は、主治医とは別に医療的ケア指導医を定め、緊急時対応マニュアル等の内容についての意見書を求める。 実施体制及び環境の整備 学校において、実施体制及び環境の整備を行う。 校(園)内委員会(第2回目) 医療的ケア指示書、医療的ケア指導医による意見書、学校医療的ケア看護師の配置、個別実施マニュアル、緊急時対応マニュアル、および実施体制等について、確認、検討を行う。 ※協議の結果、その時点で実現が難しい場合は、保護者への説明と保護者による実施を依頼する。 保護者への通知 人工呼吸器の管理の実施について、保護者に通知する。 研修と訓練の実施 人工呼吸器の管理の実施前に、学校において研修と訓練を実施する。 校(園)内委員会(第3回目) 学校における研修と訓練の状況や当該医療的ケア児の状況を踏まえた保護者の付添いから学校医療的ケア看護師への移行スケジュールの検討・決定する。 決定内容をもとに移行計画票を作成する。 当該医療的ケア児と保護者への説明 校(園)内委員会(第3回目)で決定した保護者の付添いから学校医療的ケア看護師への移行スケジュールについて、移行計画票をもとに説明を行う。 人工呼吸器の管理の開始 開始後も、当該医療的ケア児の状況や人工呼吸器管理の段階的移行について、適宜、校(園)内委員会において検討、協議を行う。 2 人工呼吸器の管理の実施に向けた基本的な進め方   人工呼吸器の管理の実施に向けては、前項1に記載したフロー図に基づき、以下の各段階を進めていく。   (1)校(園)内委員会(第1回目)    第1回目の校(園)内委員会は、人工呼吸器管理を含む医療的ケア実施申請書の提出後に開催し、教育委員会と学校で分担した保護者からの聞き取りや学校での評価による「12の観点」について協議を行う。その評価の結果を基に協議し、当該医療的ケア児の実態から、学校において人工呼吸器の管理が実施できるかの検討を行う。その際、その他の医療的ケアの申請の有無や、優先順位も重要な検討要素とする。    評価の結果、現状では人工呼吸器の管理を学校の医療的ケアとして受けることが難しいと判断に至った場合は、その根拠や改善が必要な条件について丁寧に保護者に説明し、条件等が改善されるまでの当面の間、保護者の付添いによる医療的ケアの実施について、協力を依頼する。 (2)主治医訪問の実施    校(園)内委員会での協議の結果、学校で人工呼吸器の管理を安全に行うことが可能であると判断をした場合には、保護者と調整し、保護者と共に、副校長(副園長)、学校医療的ケア看護師、担任教諭等による主治医訪問を実施する。    人工呼吸器の管理について、     〇 主治医の見解     〇 学校におけるメリットとリスク(特に医師が不在の学校である点など)    といった点を主治医、保護者および学校関係者で確認し、医療的ケア指示書の作成を依頼する。   ※ 最終判断は、校(園)内委員会の協議を踏まえ校長が決定するので、即時に学校でできるかどうかの判断をせずに、学校に持ち帰り回答する。 (3)学校医療的ケア看護師によるマニュアルの作成    保護者を通じて医療的ケア指示書が学校に提出された後、学校は以下の対応を行う。   @ 学校医療的ケア看護師に個別対応マニュアル、緊急時対応マニュアルの作成を依頼する。     必要に応じて担任、養護教諭、学校管理職は、マニュアル作成に協力(支援、助言)する。   A @で作成したマニュアル、医療的ケア指示書の写しを支援教育課に送付する。 (4)医療的ケア指導医による意見書作成    支援教育課が主治医とは別に定めた医療的ケア指導医に対し、医療的ケア指示書とマニュアルを送付し、内容に関する意見書の作成を依頼する。    医療的ケア指導医から指示内容について主治医に照会の申し出があった場合は、支援教育課が保護者に確認の上、医療的ケア指導医と主治医が連絡を取れるように調整する。 (5)実施体制及び環境の整備    学校は校(園)内委員会(第2回目)に向けて、当該医療的ケア児の医療的ケアの実施に必要な実施体制及び環境の整備を行う。   @ 教職員の役割分担の確認   A 学校医療的ケア看護師の配置の確認   B 関係者ごとにおける作成したマニュアルの確認   C 教室、保護者や看護師の控室、緊急時の動線及び必要物品等の確認。 (6)校(園)内委員会(第2回目)    第2回目の校(園)内委員会は医療的ケア指示書、個別実施マニュアル、緊急時対応マニュアル、実施体制及び環境の整備について、関係者で確認と検討を行う。    確認と検討の結果、人工呼吸器の管理を行うことが決定した場合は、教職員や学校医療的ケア看護師向けの人工呼吸器の管理に関する研修・緊急時対応訓練の準備を開始する。    確認と検討の結果、現状では人工呼吸器の管理を学校の医療的ケアとして実施することが難しいと判断に至った場合は、その根拠や改善が必要な条件について丁寧に保護者に説明し、条件等が改善されるまでの当面の間、保護者の付添いによる医療的ケアの実施について、協力を依頼する。 (7)保護者への通知    校(園)内委員会(第2回目)において、人工呼吸器の管理の実施を決定したあと、保護者にその旨を伝え、研修と緊急時対応訓練の実施に向けた調整を依頼する。 (8)研修と緊急時対応訓練の実施    教職員等の学校関係者、学校医療的ケア看護師に対する人工呼吸器の管理に関する研修・緊急時対応訓練を行う。   @ 学校と保護者が研修や緊急時対応の実施可能日を相談の上、学校が主治医(または医療的ケア指導医)へ連絡する旨の承諾を保護者から得るか、保護者から主治医に連絡・調整をしてもらうように伝える。   A 学校が主治医(または医療的ケア指導医)へ連絡する場合は、人工呼吸器の管理に関する研修・緊急時対応の実施に関する連絡・調整を行う。    ※ 人工呼吸器の製造販売元も出席することがある。      B 保護者または学校から、主治医(または医療的ケア指導医)と訓練・緊急時対応訓練について調整がついたら、主治医(または医療的ケア指導医)に依頼文を送付する。   C 学校は人工呼吸器の管理に関する研修・緊急時対応訓練を行う。なお、当日出席できなかった関係者がいる場合には、研修と緊急時対応訓練の内容を確実に伝達する。     (9)校(園)内委員会(第3回目)    第3回目の校(園)内委員会は人工呼吸器の管理に関する研修・緊急時対応訓練の結果と、該当医療的ケア児の状況を踏まえ、保護者の付添いから学校医療的ケア看護師対応への移行のスケジュールを検討、決定する。決定した内容を保護者への児童・生徒へ説明するため、移行計画票を作成する。 (10)保護者への説明    第3回目の校(園)内委員会で決定した保護者の付添いから学校医療的ケア看護師対応への移行のスケジュールについて、移行計画票をもとに説明を行う。説明の結果、当該医療的ケア児や保護者から移行に対する疑義や不安に関する相談があれば丁寧に説明を行い、必要に応じて計画の見直しを行う。 (11)人工呼吸器の管理の開始    保護者の付添いから学校医療的ケア看護師対応への移行のスケジュールをもとに、人工呼吸器の管理を開始する。 V 保護者の付添いから看護師対応への段階的な移行に向けて               人工呼吸器の管理について、保護者の付添いから学校医療的ケア看護師対応への段階的な移行に向けては、まず当該医療的ケア児や保護者の意思や状況を理解する必要がある。 1 当該医療的ケア児の視点   人工呼吸器を長く使用している当該医療的ケア児には、人工呼吸器のトラブル等への不安から、保護者等に同室待機を求めるなど、心理的依存度が高い場合があるという。      一方、学年が上がるに伴い、保護者と同室で学習することに抵抗感のある当該医療的ケア児もいるという。   当該医療的ケア児の意思や状況を十分に把握しつつ、当該医療的ケア児の自立や社会参加を進めるためにも、保護者の付添いから学校医療的ケア看護師対応へ移行する必要がある。 2 保護者の視点   人工呼吸器を使用する当該医療的ケア児の保護者は、様々な思いや考えを抱えていると考えられる。保護者の意思を尊重しつつ、保護者に付添いの協力を続けることは、一時も離れられない肉体的・精神的負担、就労や保護者自身の生活の充実を阻むことにつながる。   医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律の趣旨を踏まえ、保護者を含む家族の負担軽減を進めるためにも、保護者の意思や状況を十分に把握しつつ、保護者の付添いから学校医療的ケア看護師へ移行する必要がある。   3 人工呼吸器の管理の移行に向けた注意点   人工呼吸器の管理を保護者から学校医療的ケア看護師へ移行するためには、自発呼吸の有無や、言葉による意思表示の有無にかかわらず、当該医療的ケア児の意思や心理的な状況を十分に確認、把握するとともに、保護者についてもその意思や意向を十分に確認する必要がある。 そして、関係者間で情報共有を行い、信頼関係を築いたうえで進める必要がある。 4 人工呼吸器の管理の移行の基本的な進め方   人工呼吸器の管理を保護者の付添いから学校医療的ケア看護師への移行する基本的な進め方については、移行の段階を4つに分け、第1段階から第4段階へと、当該医療的ケア児の実態に応じて段階的に移行していく。 最終的には、健康状態や他の医療的ケアの必要性にもよるが、学校医療的ケア看護師が校内で待機し、教職員と当該医療的ケア児だけの学習活動を進めるようになることが望ましい形である。   5 各移行段階の内容   各移行段階の内容は以下の通りである。段階を移行するにあたっては、当該医療的ケア児と保護者の了承を得るとともに、移行計画票をもとに校(園)委員会で検討のうえ校(園)長が移行の可否を決定し、その決定内容について当該医療的ケア児と保護者に十分に説明を行う。特に次段階の移行が困難であると判断した場合や前段階へ戻る必要がある場合には、保護者へ付添いや待機の継続的な協力を依頼することになるため、判断理由や今後の見込みなどについてもあわせて十分に説明を行うようにする。   なお、各段階における期間については、当該医療的ケア児の状況、各段階における確認事項の確認や改善の状況、及び、学校医療的ケア看護師の医療的ケア手技の習得状況等により個々で異なる。ただし、各段階を可能な限り短縮できるように、当該医療的ケア児の就学前機関や療育機関等における状況や、学校を欠席した日における家庭での状況など、こまめな情報収集に努めていくものとする。 段階的移行のフロー図があります。 (1)第1段階   保護者 同室待機 学校医療的ケア看護師 同室待機 開始の要件 ・校(園)内委員会で開始の決定をしていること(第U章)。 ・当該医療的ケア児に安定した登校の実績が、一定期間あること※。  ※ 週3日以上1か月以上通学していることを目安とする。新入生については4月から5月の連休後の体調を把握できるまでの概ね5月下旬頃までとする。 第1段階の確認事項 ・当該医療的ケア児の健康状態について、学校を欠席した日も含め、学校医療的ケア看護師や学校関係者が的確に把握していること。 ・人工呼吸器の管理について、保護者から学校医療的看護師について十分に引き継いでいること。 ・個々の実態に合わせた排痰介助およびバキング(用手換気)の手技について、学校医療的ケア看護師が理解し、実施できること。 ・緊急時を想定した訓練を複数回実施していること。また訓練においては、主治医等の指示に基づき学校関係者がバキング(用手換気)の操作も行い、個々に合わせた緊急時対応を確認していること。 (2)第2段階 保護者 隣室待機 学校医療的ケア看護師 同室待機 開始の要件 ・第1段階での確認事項が全て確認できていること。 ・当該医療的ケア児と保護者から第2段階への移行の了承が得られていること。 ・校(園)内委員会で第2段階への移行が決定していること。 第2段階の確認事項 第2段階では、第1段階での実績を踏まえながら、主に以下の点について確認する。 ・保護者は、隣室待機とする。個々の当該医療的ケア児の身体状況や自発呼吸の有無、人工呼吸器への依存度により、第3段階の待機場所の検討を行う。  (例:隣室の教室→同じフロアの教室→上下フロアの教室) ・学校医療的ケア看護師が同室で待機し、当該医療的ケア児の健康観察を行いながら、授業中の様子について把握すること。 ・学校医療的ケア看護師が人工呼吸器の管理を行い、不明な点等については保護者に確認を行う。必要な場合には主治医に確認をしていること。 ・自然災害等による停電や機器のトラブルに対する対応が明確に整っていること。   (3)第3段階 保護者 校内から学校周辺(概ね5分圏内) 学校医療的ケア看護師 同室待機 開始の要件 ・第2段階での確認事項が全て確認できていること。 ・当該医療的ケア児と保護者から第3段階への移行の了承が得られていること。 ・校(園)内委員会で第3段階への移行が決定していること。 第3段階の確認事項 3段階では、第2段階での実績や校内の体制を踏まえながら、主に以下の点について確認する。 ・当該医療的ケア児の状況に応じて、学校医療的ケア看護師は同室待機とし、問題なく行われること。 ・第2段階の検討を踏まえ、保護者は段階的に校内待機から学校周辺への待機に移行する。保護者へ予告なしに緊急時を想定した保護者への連絡・かけつけ訓練を複数回実施し、問題なく行われていること。 (4)第4段階(完全移行) 保護者 校外待機(付き添い終了) 学校医療的ケア看護師 同室待機または隣室待機 開始の要件 ・第3段階での確認事項が全て確認できていること。 ・当該医療的ケア児と保護者から第4段階への移行の了承が得られていること。 ・校(園)内委員会で第4段階への移行が決定していること。 第4段階の確認事項 第4段階では、緊急時における対応や保護者との確実な連絡手段を確立するために、主に以下の点について確認する。 ・学校医療的ケア看護師は同室待機とするが、当該医療的ケア児の状況により可能であれば隣室待機も可とする。  隣室待機の場合は定期巡回を行うとともに、学校医療的ケア看護師へ予告なしに緊急時を想定した学校医療的ケア看護師への連絡・かけつけ訓練を複数回実施する。 ・保護者へ予告なしに緊急時を想定した保護者への連絡・かけつけ訓練を複数回実施し、問題なく行われていること。 ・問題なく行われれば、完全移行(付き添い終了)とする。 6 校外等における人工呼吸器の管理 (1)校外活動や宿泊行事における対応    校外学習における人工呼吸器の管理は、校(園)内での実施と環境が異なることからリスクが高まるため、校(園)外での人工呼吸器の管理については、原則、保護者に対応を依頼する。    また、校(園)外の宿泊行事についても、当該医療的ケア児の夜間の健康状態を把握していないため、保護者に対応を依頼する。また宿泊中の入浴は安全を考慮して、清拭のみを基本とする。    今後、事例を積み重ね、他の医療的ケアを必要とする医療的ケア児の状況や特別支援学校での実施状況を踏まえて、学校医療的ケア看護師による対応を検討していく。    (2)体育(保健体育)の授業等の対応    体育(保健体育)の授業等は人工呼吸器を装着した状態で行うことが基本であると考えられるが、当該医療的ケア児に自発呼吸があり、医療的ケア指示書に記載された時間内で人工呼吸器から一時的な離脱ができるのであれば、より効率的に身体運動が可能になる場合がある。    人工呼吸器の着脱に伴う事故に備え、保護者、教職員、学校医療的ケア看護師で緊急時対応等の手順を再確認するとともに、当該医療的ケア児の主治医から指導・助言を受け、不測の事態に対処できる体制の構築ができているか判断したうえで、授業への参加の可否を校(園)内委員会で検討、判断する。   (3)水泳指導の対応    人工呼吸器を必要とする当該医療的ケア児のプールでの指導は、気管切開部から水が入るなど、大きな事故につながる可能性がある。    高度な指導技術とマンパワーが必要となるため、主治医から明確な参加の可否の指示を受け、当該医療的ケア児と保護者の意向を確認する必要である。(2)に準じて判断を行うが、    ・当該医療ケア児がどの程度、プール指導が可能か。    ・プールサイドでの学校医療的ケア看護師による人工呼吸器の管理が可能か。    ・プール指導中での緊急時対応が迅速に可能か。    といった点を留意し、当該医療的ケア児の安全性を第一優先で慎重に判断する。 7 一時的着脱への対応   人工呼吸器はその使用目的や当該医療的ケア児の実態に応じて、一定時間のみ使用する装着や一定時間のみ使用しない着脱等がある。   そのため、個別のケースに合わせた対応を検討する際には、校(園)内委員会で管理を安全に実施するための「12の観点」を基に校内で協議を行うとともに、主治医や指導医からの助言を踏まえて慎重に対応する。 W 学校における緊急時・災害時対応について                       1 緊急時対応の準備   学校において人工呼吸器の管理を安全に実施するためには、当該医療的ケア児の急激な体調変化や人工呼吸器のトラブルなどの緊急時に、的確な対応を万全に行うことが不可欠である   当該医療的ケア児のそばにいる教職員等は異常の早期発見に努め、異常を発見した場合は迅速に学校医療的ケア看護師や学校管理職に連絡し、緊急放送等で周知する。連絡を受けた学校医療的ケア看護師は現場に急行して、当該医療的ケア児ごとの緊急時対応マニュアルに基づいた対応を的確に行い、生命の危機を回避する。   また、校内図にAED、担架等の救急物品の位置を示した校内救急マップを作成し、定期的(1年に1回以上)に緊急時対応訓練を実施し、教職員等が役割を認識し、連携して対応できるようにする。またその訓練の内容については、保護者にも周知、報告する。 (1)緊急時対応マニュアルの作成    人工呼吸器を装着している当該医療的ケア児ごとに、以下の内容を含む緊急時対応マニュアルを作成する。   @ 対応手順     緊急事態が発生した際に、安定状態に移行または救急隊に引き継ぐまでに、本人の生命を守るために必要な対応に手順を決めておく。   A 連絡体制     緊急事態が発生した際の校内関係者や保護者への緊急連絡の手順や救急車の要請の手順を決めておく。   B 救急隊への引継ぎ手順書     緊急時に救急隊へ円滑に引き継ぎができるように、次ページの例のような引継ぎ手順書を作成する。   C 校内救急マップ     緊急時対応を円滑に行うため、担架(車椅子)、AED、非常用電源等の設備の場所を示したマップを緊急時対応マニュアルの別添として作成し、日常的に活用できるようにする。    ※ 校内救急マップには、グループ学習等で使用する教室も明記しておくことにより、教職員等が緊急時に即時対応できるよう、常にシミュレーションをしておくことが大切である。 救急隊への引継ぎ手順書の例が、表であります。 (2)医療的ケア児等医療情報共有システム(Medical Emergency Information Share:MEIS)」 の活用    主治医がMEISを使用している場合は、救急搬送等により医療機関を受診した際に、救急医等に当該医療的ケア児の医療情報を提示できるよう、保護者から、事前にMEISの救急サマリー(書面)の提出を受けるなど、緊急時対応の一環としてMEISを活用する。    (3)定期訓練の実施    人工呼吸器の管理について保護者の付添いから学校医療的ケア看護師対応への段階的な移行においても、緊急時を想定した訓練を実施するが、それとは別に、1年に1回以上、緊急時対応を想定した訓練を行い、教職員、学校医療的ケア看護師等が役割を認識し、連携して対応できるようにする。またその訓練の内容については、保護者にも周知、報告、必要に応じて訓練への参加を依頼する。    2 緊急時の確認事項   緊急時には、落ち着いて次ページのようなチェックリストの項目を確認し、事態の把握を行う。   緊急時に備え、日ごろから当該医療的ケア児の下記項目の確認を行っておくことが重要である。   また、以下のチェックリストで掲げた内容以外に当該医療的ケア児に必要な項目があれば、チェック項目を追加する。   その他、ヒヤリハットを含む事故、緊急事態が発生した際の対応については、「学校等における医療的ケア実施ガイドライン」を参照し、対応する。 緊急時チェックリストが、表であります。 3 災害時に備えた物品の確保について                   令和6年度から「学校等における医療的ケア実施ガイドライン」に基づく取り組みが開始となり、電気を使用する医療機器を用いる医療的ケア児が在籍する学校等には、非常用電源の配備を開始する予定である。   人工呼吸器で使用するバッテリーは、機種ごとに異なり個別性が高いことから、予備用のバッテリーは保護者に用意を依頼する。  ※ 災害時に停電が長期化することを見据え、2個のバッテリーに交互に充電できるようにする。 X 様式集                                    1 医療的ケア指示書   表があります。 2 12の観点[園児・児童・生徒の状況確認用]   表があります。 3 12の観点[園児・児童・生徒の環境確認用]   表があります。 4 移行計画票   表があります。 Y 参考資料                                    1 都立特別支援学校における人工呼吸器による医療的ケアを必要とする子供の安全な学校生活のためのガイドライン(改訂)   (令和4年11月 東京都教育庁 都立学校教育部 特別支援教育課) 2 学校における医療行為の判断,解釈についてのQ&A(日本小児科学会雑誌 第124巻 第6号 1054−1060)  (令和2年6月 日本小児医療保健協議会 重症心身障害児(者)・在宅医療委員会) 3 小学校等における医療的ケア実施支援資料 医療的ケア児を安心・安全に受け入れるために   (令和3年6月 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課) 4 子どもと家族を支える医療者のための小児在宅人工呼吸療法マニュアル 第2版   (令和4年8月 一般社団法人日本呼吸療法医学会小児在宅人工呼吸検討委員会 編著 メディカ出版)